■ [ゼミ]学生さんに対する指導法
学生さんが卒業研究のことで相談に来たとき、私の発する言葉は殆ど同じです。
最近、研究のことで報告に来ない学生さんに対しては、「○○ちゃん、私は何を言いたいと思う?」と質問します。本人も自覚しているので、すぐに「報告が無いこと」だということを察します。次に、「それでは、○○ちゃん、どうしたらいいと思う?」と聞きます。そうすると、私がすべきだと思っていることを答えてくれます。その後は、「じゃあ、そうしてね。信じているから。」で終わりです。
研究の方法で相談に来た学生さんは、大抵、「先生どうやったらいいんでしょう?」と漠然と聞きます。それに対しては、「○○ちゃんは、どうしたらいいと思う?」と質問します。そうすると、学生さんの考えている研究方法を説明します。その後、「なぜ、そういう方法にしたの?」と質問します。そうすると、学生さんは一生懸命考えていますから、大抵の場合は妥当な道筋で考え、妥当な研究方法を答えます。そのため私は、「じゃあ、そうすればいいんじゃない?」と答えます。
もし、学生さんが一生懸命考えても答えられない場合は、二つの方法を採ります。もし、私の知っている典型的な教育研究の躓きの場合は、私の書いた「実証的教育研究の技法」の該当ページを示して、「この部分読んだ?これ読んで分からなければ、もう一度聞きに来て」と答えます。大抵の場合、これで解決できます。しかし、それでも解決できない場合は、「実際の学校現場のことは私なんぞより、院生さん(現職派遣の院生さん)に聞いてみな。例えば、○○さんに聞けば、私と違って懇切丁寧に相談にのってくれるよ。相談した後で、もう一度聞きにきな。」と言います。また、同様なことで過去に悩んだ上級生がいる場合は、その上級生に相談するよう勧めます。実際、私よりずっと良いアドバイスをしてくれます。これで95%以上の問題は解決できます。(院生の皆さん、学生さん、感謝いたしております)私が指示を与えるのは、残りの5%程度の部分です。
私が指示を与える場合も、大抵は直接に「これこれしなさい」と言うことは殆どありません。大抵は、「これこれのことはどう思う?」という質問をしているうちに、学生さん自身で解答を見つけだします。
以上のように、大抵は質問形式です。最初から「これこれしなさい」と言わないのには理由があります。第一に、そうやると何も考えずに、言われたままやるだけの研究になるからです。第二に、私自身も、本当はどうやっていいか分からないから、質問をしながら議論し、私自身も考えているからです。だって、教官が全てを見通すことが出来るような研究は、研究ではなくてお勉強ですよ。分からないから、わくわくしながら院生さん、学生さんと議論できるんですから。
■ [ゼミ]学生さんの言い訳に対して
「先生、私頑張ったんです。」→「頑張らなくてもいいよ。結果さえだしてくれれば。遊びまくっても、結果さえだしくれればいいんだよ。」
「徹夜してやったんです。」→「徹夜する理由は三つ考えられます。第一は、君が無能である。第二は、君が無計画である。第三は、君は無能で、かつ、無計画である。この三つのうちの一つだよ。」
「部の大会があったんです。」→「いい成績出せた?そう、よかったね。ところで、私は卒研があるから部をやめろと言うつもりはないよ。○○ちゃんも部があったから、出来なかったと言わないで。部と卒研は無関係なんだから。それに、部の大会はいつだっていうことは、ずっと前から知っていることでしょ。それを見越して仕事をやればいいことじゃない。」
「教員採用試験の勉強があったんです」→「私も教員採用試験を受けて教師になったから、試験勉強が大変だということは理解しているよ。でも、同時に教員採用試験の勉強は、退屈で退屈だから、一定時間以上に長く勉強できないことも知っているよ。採用試験勉強が嫌になったときに、気晴らし程度の時間を作業してくれればいいんだよ。ちなみに、君の先輩の○○ちゃんは、この時期は調査協力校にずっと張り付いてデータを取っていたけど、教員採用試験が厳しい中、一発で合格したよ。」
文字に改めて書くと、本当に嫌みな人間だと自己嫌悪してしまいます。
ちなみに、私が認める言い訳は、近親者の不祝儀の他は以下の通りです。
「恋人とのデートでした」:これは全身全霊を傾けなければなりません。もしかしたら一生の伴侶を見いだせるかもしれません。これは卒業研究より絶対に大事なことです。
「怠けていました」:これもしょうがない。
ただし、上記の理由に対しては「今回はしょうがないけど、次回はやってくれるよね。信じているよ。」と言います。しかし、上記が続くと、「高校を出ていなくても、幸せな人生をおくれると思うよ。ましてや大学を出なくても、幸せな人生をおくれるよ。大学を卒業できなくても、君という人間の価値は、いささかなりとも傷つけられるものではないよ。」と言って、にこっと微笑みます。(本当に嫌みだ)。
ゼミの学生さんからは、「西川先生は、いつもニコニコしているけど、結局、やらざるを得ない状況に追い込まれてしまうから、怖い」と言われます。
■ [ゼミ]学生さんを怒鳴ること
私の大学院の指導教官は小林学先生です。小林先生は東京にある筑波大学学校教育学部に勤務され、東京にお住まいです。木曜日は授業、ゼミのため筑波にまで来ていただきます。そのため、木曜日はゼミ生の間で先生の時間の取り合いです。
ある木曜日、小林ゼミの後輩Tが個人ゼミの時間に遅刻しました。小林先生は、ニコニコして何も注意しません。ゼミの後に、Tを呼びつけ、「小林先生は我々のためにわざわざ東京からいらしていただいているのに、遅刻するとは何事だ!」と怒鳴りつけました。
次の木曜日の朝、電話のベルで起きました。受話器を取ると、「西川さん、ゼミの時間ですよ」という、笑い出しそうなTの声。あわてて、大学にいき小林先生にお詫びし、個人指導をしていただきました。部屋を出ると、Tが待っていました。私は、「分かった、何も言うな。今日は俺が飲ませてやる」と言って、平謝り。本当に人を怒鳴ることは出来ないなと思った経験です。ゲーテの言葉に、「寛大になるには、年を取りさえすればよい。どんなあやまちを見ても、自分の犯しかねなかったものばかりだ。」という言葉があります。そのため、私は基本的に学生さんを怒鳴ることはしません。だいたい、人間関係があれば怒鳴らなくても、穏やかに話せば分かってもらえます。人間関係がなければ、怒鳴っても分かってもらえません。