お問い合わせ  お問い合わせがありましたら、内容を明記し電子メールにてお問い合わせ下さい。メールアドレスは、junとiamjun.comを「@」で繋げて下さい(スパムメール対策です)。もし、送れない場合はhttp://bit.ly/sAj4IIを参照下さい。             

2002-08-01

[]やっぱりね 09:20 やっぱりね - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - やっぱりね - 西川純のメモ やっぱりね - 西川純のメモ のブックマークコメント

 昨年卒業したMちゃんから「昨日のできごと」というメールが来ました。書き出しは、「昨日、感激したことがあったので、先生メールを書かなきゃ!!!と思いました。」です。最初は、構内での研修の様子を紹介して、「昨日も講師の先生が来てくださって・・」と研修の様子を書いていました。以下のようです。

 『昨日も講師の先生が来てくださって話をして下さいました。理科先生でした。その先生の授業様子をビデオでみせてもらい、話を聞きました。ビデオでの理科の授業の様子は、Kさん (西川研究室OB)の授業のように子どもたちが言いたいことを言い合い、聞き合っている様子をみてびっくりしました。その授業は10年ほど前にやった授業だときいてさらにびっくりしました。そして、その先生は、授業の様子をテープレコーダーに録音してあとで聴き直し、自分の授業の悪さを確認したり、子どもたちが何を話しているのかを聞いて、そのプロトコルを起こし理科通信というプリントを発行し、その中に子どもたちの言葉を載せていたそうです。自分が話をするよりも子どもたちが話した方が子どもは良く聞くというのがわかったので、それからはでしゃばらないようにしたと話されていました。ゼミ(注 つまり昨年まで所属していた西川研究室)で、このような話し合いをする(できる)のは、普通だと思っていましたが学校で、しかも自分のこんな近くで、しかも10年以上も前に自己モニターを実践していた先生がいたことにびっくりし、感激しました。なぜ、そのような方法をしようとおもったのですか?と尋ねてみたら「風邪で声が出なくなったから、子どもに変わりに話してもらったら良く聞くことから、言いたいことはこどもに言わせるようにしようと思った。 テープで撮ろうと思ったのは、どんな授業をしているか解るために。それで、聞いてみたら、なんてつまらない授業なんだと気がついて恥ずかしかったよ。つまらないきっかけだけどね。」と話して下さいました。』 

 読み終わって「やっぱりね」と思いました。本(実証的教育研究の技法)にも書きましたが、教育上の真理は分かってみればあたりまえのものです。今、この瞬間にも数百万人の「先生」がいます。明治学校教育制度が成立した時代に限っても、「先生」という職についた人の数は膨大です。その先生方の中で、心ある先生方が色々な試みをしているはずです。従って、正しいことを気づく人は少なくありません。我々は、今、正しいと信じるに足ることを明らかにしつつあります。しかし、それが歴史上初めてだと主張するつもりはありません。正しければ、正しけれほど、きっとだれかが気づいているほどです。逆に言えば、本当に歴史上初めてであるならば、それは本当は正しくないのかもしれません。

 それでは我々のオリジナリティは何か?ゼミの方々には何回もかたったことです。我々のオリジナリティは、現象を生々しいデータを丹念に記録し、それを教師の価値観と直感で拾い上げ、質的かつ量的データにより分析することです。そのことによって、一人一人の発見を、一人でも多くの人の共感をによって広げることです。

 Mちゃんのメールを読んで、意を強くしました。同時に、Mちゃんに教えてもらった先生の英知を吸収し、それを広める責任を感じました。

追伸 Mちゃんは現在滋賀県で非常勤をやっている子です。この子を本採用にしないなんて、とっても信じられない。滋賀県の方、絶対のおすすめの子ですよ。

[]学問の凄さ 09:20 学問の凄さ - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 学問の凄さ - 西川純のメモ 学問の凄さ - 西川純のメモ のブックマークコメント

 「やっぱりね」を書き終わりながら、自分たち何をやっているのかを考えてみました。そう考えてみて、学問のすごさとは時間と距離を超えることが出来ることだと思いました。

 私の修士論文理科教育学会の学会誌と、科学教育学会の学会誌に掲載されました。掲載が決まったとき、「ああ、これで俺が死んでも、俺の明らかにしたことは残るな」と24歳の自分は思いました。大げさな感想ですが、学会誌に掲載されれば、その記録は残ります。自分も大学院生の時、過去の文献を読み直し、20~30年前の論文を読みました。その際に読んだ論文の著者が、学会に杖をつきながら参加しているのを見てびっくりした思いがあります。

 我々の研究室に所属したA県の先生修士論文は、学会誌、研究室の本を通して、A県以外の先生方に影響を与えます。その成果を読んだB県の教育センター先生方が興味を持ってもらい、私を講演会の講師として呼んでくれます。私は、その講演会で、我々の研究室の成果を話します。それによって多くの先生方に共感してもらえいます。

 この時間・距離を超えた影響を与えることは学問の強さです。今、この時間は過ぎるものです、でも、今この時間を研究の成果として固定することが出来ます。さらに、その成果を距離を越えて伝えることが出来ます。だから、時間と距離を超えるに足る成果をまとめたいと思います。だから、研究室メンバーには「他の先生方に共感を得てもらえます?」、そして何よりも「自分で納得できます?」と問いかけるんです。