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2004-04-19

[]何をやっていたんだ 16:16 何をやっていたんだ - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 何をやっていたんだ - 西川純のメモ 何をやっていたんだ - 西川純のメモ のブックマークコメント

 星新一の短編SF(「ようこそ地球さん」の中の「空への門」)にこんな話がありました。ある世界においては、宇宙飛行士はエリート中のエリートです。知的にも肉体的にも厳しい試験を通ったものだけが、それになるための大学の学科に入学することが出来ます。入学後も、誘惑に負けたものはどんどん脱落します。話の主人公は、その競争の中で勝ち抜いた人です。宇宙飛行士以外は意味ある職業とは認めず、知的にも肉体的にも劣っている人としか見ていません。彼の宇宙飛行士への熱意は固く、長い期間、誘惑にも負けず、全てを捧げ続けました。アカデミーの卒業時に、宇宙飛行士コースとは違う、工学関係のコースに進んだ知人が卒業発表をしているところに出くわしました。主人公は、宇宙飛行士になれない二流、三流の奴の発表だが、暇つぶしに聞こうかと思い、立ち寄りました。発表は最後のまとめにかかっていました。発表者は、次のように語り発表をまとめました。「以上のような考案に基づいて製作される宇宙船は、もう、いままでのように、特殊な能力を持った乗員を必要としません。どんな平凡な人でも、なんの不便も危険も感じることなく、操作運転できるのであります」。話は、それで終わっています。しかし、主人公は「俺は今まで何をやっていたんだろう」と思ったでしょう。

 本日、あるOB(中学校理科教師)から以下のメールが来ました。内容はTTで自分の専門外の数学を教えた経験です。そのメールを読み終わって、上記の話をふと思い出しました。

 中学校1年生の数学の時間に、T・Tで入っている私が中心になり授業をしました。内容は「正の数、負の数」の引き算・足し算です。中学校に入って、始めて数学を習う1時間目の授業でした。本来ならば、先生が数直線を使って、教え込む授業になるのですが、私は、以下のようにしました。

私:「5+3=何だろう?」

生徒:「8」

私:「5-3=?」

生徒:「2」

私:「3-5=?」

生徒:「-2」

私:「じゃあ、どうして、3-5=-2になるか、小学校1年生(私の息子)にかわるような説明を班で考えてください」

生徒:(一瞬静まりかえりえる。こんな授業は初めてだという空気が流れる)

私:「それでは、4人班になって考えてください。時間は30分です」

 生徒は、いろいろなアイデアで説明を考えて出していました。時計、温度計、エレベーター等、身近なもので説明しようとしていました。なかには教科書に書いてある数直線をつかったり、やり方を説明するものもありましたが、何よりも数学の先生が、「こんなに生徒の目が輝いている授業は初めてです。この輝きを絶やさないためにも○○先生がずーと授業をしてください」と言われました。学び合いを理解すると、他の教科の学習内容のスペシャリストでなくても、授業は十分ですきることを実感しています。要は、子どもたちが勉強できる環境を与えてやればいいだけですものね。

 私の講演の後の感想の中に、「私は今まで何をやっていたんだろう」というものがあります。特に、校長・教頭レベルの先生に、そのような感想を言われる方が少なくありません。このメールの先生にある数学の先生も、そのように思ったのではないでしょうか?今まで学んできた教材の内容に関するもの、教材に関連した教え方に関するものを知らないであろう理科の先生が、自分より数学の授業を成立させているのですから。おそらく、色々と理屈をこねてみますが、目の前にいる子どもの様子が何よりの証拠です。

 我々の考える教師の力量とは内容でも教え方でもありません。

 第一に子どもを信じられるか否かです。それを出来るためには、子どもの良さを見出す能力が必要です。そのためには、どのような所にそれが現れるかを理解している必要があるでしょう。例えば、私語のどこに着目すればいいか、立ち歩きのどこに着目すればいいかを知っていれば、それらを安心してみていることが出来ます。

 第二の力量は、目標を設定する能力です。この場合、「自分の息子に分かるような説明を考えて欲しい」という課題を設定出来るか否かです。

 我々は、この二つの力量を得るための事例を収集し、それを通して、自らも力量を高めたいと願っています。