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2006-05-18

[]教師の仕事 11:21 教師の仕事 - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 教師の仕事 - 西川純のメモ 教師の仕事 - 西川純のメモ のブックマークコメント


 医者仕事は何でしょうか?聴診器心音を聞くことでしょうか?注射をすることでしょうか?薬を処方することでしょうか?違います。医者仕事病気を治すことです。聴診器注射も薬も、病気を治すという仕事のために、必要なときに選択される手段にすぎません。

 本日M1のOさん、Sさんと一緒に、地元小学校に行きました。目的は、その学校で「学び合い」を取り入れる際、疑問に思っていることを実践者の人から聞きたいという希望を叶えるためです。従って、イントロダクション部分は私が語りましたが、後はお二人にお任せです。

 帰りの車の中で、「どんな質問が応えるのに難しかった?」と聞きました。典型的な疑問が多かったようですが、印象深い質問が二つありました。第一は、「教えるのが教師の仕事だから、それをやるなと言われても納得できない」です。第二は、「教材研究が教師の専門性であるので、それが無かったら、教師の専門性は何だろうか?」です。色々な応え方がありますが、聞かれた前後の意味を勘案して、それに対する「私だったら」の応えをメモります。

 第一の質問に対しては、以下の通りです。

 教えるのが教師の仕事ではありません。教師の仕事人格の完成です(教育基本法の第1条にあります)。さて、人格の完成とは何でしょう?それは、人と関わりながら教材を学び、それを分かり、心を成長させ、それによって人と関わり合いながら社会の一員となれる人を育てることです。我々は、「分かり」、「心を成長させ」、「社会の一員となる」は不分離と考えています。話を簡単にするために、教師の仕事は「分からせる」ことだとしましょう。これは、多くの教師が納得してくれるでしょう。

 であれば、「先生が教えることが、分からせるに最も優れたものなら、教えてください」と言います。少なくとも、「先生が教えることが、分からせることに最も優れたことが多いなら、どうぞ、教えてください」と言います。同時に、「でも、その根拠を教えてください?」と言うでしょう。考えてください。子どもは一人一人多様です。どんな教師でも、クラスには「出来る子」と「出来ない子」がいることは知っています。また、「図を書いて理解するタイプ」、「言葉で理解するタイプ」がいるでしょう。「帰納的に考えるタイプ」、「演繹的に考えるタイプ」がいるでしょう。その他、様々なタイプの子がいます。そのような子どもがいっぺんに分かるような説明ってあると思います?あり得ません!

 もし、それぞれの子どもにとって、それぞれ最善の説明があることが理解してもらったとしましょう。クラス子どもたち、一人一人のタイプがどんなタイプか把握している教師なんているのでしょうか?また、それぞれに対応した最善の説明の仕方を考えられる教師なんているのでしょうか?1万歩(百歩ではありません)譲って、それらを出来るとして、どうやって数十人の子どもに語るのでしょうか?そんなの不可能です。再度、問います。「先生が教えることが、分からせるに最も優れたものなら、教えてください」と言います。少なくとも、「先生が教えることが、分からせることに最も優れたことが多いなら、どうぞ、教えてください」と言います。同時に、「でも、その根拠を教えてください?」と言うでしょう。教師の仕事は「教えること」ではなく、「分からせること」なんです。

 教材研究も同じです。「先生が教材研究をすることが、分からせるに最も優れたものなら、教材研究してください」と言うでしょう。そして、「その根拠を教えてください?」と言うでしょう。何故、教師は深い教材研究が必要なんでしょう。大抵の教師の考える教材研究の効能は、一人一人の子どもの質問に対して、即妙の反応が出来るため、と考えています。しかし、それがナンセンスなのは上記の通りです。

 我々は目標の設定が大事だと考えています。であるので、教材研究目標設定に大事だ、と言えるかもしれません。でも、そんなことしなければ目標設定が出来ないとしたら、1年間の授業の中で、何時間分、それの恩恵に浴せるのでしょうか?そして、それ以外の授業は、どうやってやるのでしょうか? さらに言えば、認知心理学によれば教材研究をしっかりすると、分からない子どもの気持ちと理解が理解出来なくなります。

 教師の仕事は、「全ての子ども」に「1年中」分からせることが仕事です。それが「教えること」、「深い教材研究」で出来るのでしたら、どうぞ。私には出来ません。

 教えることに熱意を持ち、教材研究に時間を費やす方は、既に素晴らしい授業をされているのでしょう。でも、そのような力のある先生ならば、子ども達とともに授業を作り上げたなら、ものすごいことが出来るんです。