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2009-01-01

[]初夢 10:21 初夢 - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 初夢 - 西川純のメモ 初夢 - 西川純のメモ のブックマークコメント

 私の大好きなSFに「断絶の航海」(ジェイムズ.P.ホーガン)というSFがあります。内容を簡単に説明します。

 地球が壊滅的な打撃を受けた第三次世界大戦から復興した2040年に、アルファ・ケンタウリから通信が入った。内容は戦争直前に出発した移民船が植民に成功したという知らせです。早速、地球からその星に使節団が出発しました。到着すると、使節団はとまどってしまいます。何故かというと、交渉の相手となるべき中央政府がありません。それどころか、組織だった行政組織が何もありません。あるのは、町内会に毛が生えた程度の組織の集合体です。また、「お金」という概念がありません。当然、貧富の差はないし、窃盗等の犯罪もありません。強いて、「お金」に対応するものを探すと「尊敬」というものがあたります。

 このような社会が成立した理由は二つあります。第一に、移民団は受精卵レベルの子どもたちだけだったんです。そして、その子どもたちは、移民船につんであったロボットに育てられました。そのため、政治的偏見(その他、様々な因習・偏見)に汚染されることなく育ちました。さらに、ロボットが中心となって生産性の高い生産業を成立させました。その結果、個人が望むも以上の生産があるため、蓄財する必要もなく、「お金」の概念も生じませんでした。このような社会を見て、使節団の中にいる旧来型の政治家・金持ちは「無政府状態だ!」と怒り狂います。

 詳細は、小説に譲りますが、このSFは非常に面白いです。第一に、旧来型の政治家・金持ちが、いかに中央政府・金融システムが必要だと強調しても、移民達に無視される様子が滑稽です。さらに、使節団の人たちも、この星のシステムの良さに気づき、自分たちの社会の異常さに気づき、一人一人が移民社会に同化します。結局、極めて平和的に地球型のシステムは敗北します。

 という内容です。小説の後書きには何故、この小説のアイディアを得たかが説明されています。世界各地では紛争がありますが、双方とも「相手が最初にやった」と言うことを言い合って血で血を洗う状態が続きます。この状態を何とかするには、子どもたちを今までの因習から隔離して育てるしかない、という友人との話し合いから始まったそうです。

 社会には様々な因習があります。世界の富の半数は2%人が持っており、世界の富の99%の富を10%の人が持っています。それだけの富を持っている人だって、食べる量は変わりません。そうなると、その富は数十万円のワインを買うために使われ、おなかが一杯になれば、ダイヤモンドを買うために使われます。しかし、高価なワインを飲むことや、ダイヤモンドを持っていることが幸せに繋がると考えるのは因習でしょう。

 多くの受験生は、自分の未来を考えることなく、高校に進学します。そして、大学に進学する人も多いです。その学校を選ぶのも受験雑誌に書かれる偏差値を元にしており、偏差値が一つでも高い学校が良い学校だと思いこんでいます。でも、これは保護者も教師も、つまり大人がそう思いこんでいるからです。

 世の中には、運動会の100m走で手をつないでゴールすべきだと思いこんでいる教師がいます。テストの点数を張り出すことは競争をあおることだと思いこんでいる教師がいます。これも因習です。だって、そう思うのは100mが早いことが「良いことだ」と思いこみ、テストの点数が高いことが「良いことだ」と思いこんでいるからです。でも、100mのタイムが人生にどれほどの意味があるでしょう?テストで計られる、「鎌倉幕府の成立年」、「右という漢字の書き順」、「仮定法過去完了の問題」に人生にどれほどの意味があるでしょう?ところが、それを「良いことだ」と思いこみ、果ては、それを人間の序列だと心の中で思ってしまっているから、手をつないでゴールさせたり、テストの点数を非公開にするのです。そのような教師の下で育てば、子どもはそのように思いこみます。その結果、点数の高い子は低い子を馬鹿にし、低い子は卑屈になり、そして、子ども一人一人が分断されてしまいます。

 日本人の全員は小中学校に行きます。そして、ほとんどの人が高校に行きます。その小中高の先生方は約100万人です。毎度のことですが、ニッパチ理論から考えて、20万人の先生が革新者(確信者)となれば、日本の教育は変わります。20万人とは私の住んでいる新潟の地方都市である上越市の人口にも満たない人数です。その人数が変わったならば、日本人の殆どは、多感な12年間、現代の日本とは隔離された学校という社会の中で、ホーガンが描いた社会を経験することが出来ます。空想的共産主義と笑われた社会、理想的な民主主義を経験することが出来ます。

 そんな子どもが大人になれば、どんな社会が実現できるでしょうか?一人一人が見捨てられず、多様な人と多様に繋がりながら生活できます。何か悩んだときは、直ぐに相談できる仲間が歩いて移動できる範囲にウジャウジャいるのです。ごく一般人が生まれたときには何百人の人から祝福され、ごく一般人が死ぬときは何百人の人に見取られます。それが普通の社会です。

 業者テストの最低点の上昇に現れるように、社会全体として生産性は驚異的に上がります。当然、犯罪は驚異的に激減するでしょう。生産された資源は、医療・福祉に費やされます。そして、そのような社会では「尊敬」という無限の通貨によって動かされるのです。そのような社会が日本で形成されたならば、それは世界に波及するはずです。いや、日本を追い越す速度を達成する国は少なくないと思います。

 先に述べたように世界の富の半数は2%人が持っており、世界の富の99%の富を10%の人が持っています。その富が高級ワインやダイヤモンドに行くのではなく、世界に広がれば数十億の人たちが後期中等教育を受けることが出来ます。そうなったときの生産性の向上は凄いものです。それは我々が世界を「みんな」と考えられ、折り合いをつけた方が得であると実感できるか、否かによって決まります。

 私が教科教育学者として目指したものは、最初は、理科の特定の領域の問題の正解率が10%程度上昇する程度でした。『学び合い』にシフトした当初であったときも、私が高校教師として教えたオール1の子どもでも、理科の問題がそこそこ解けるようになれることを目指していました。そんな程度です。ところが今では上記の妄想をリアルにイメージできるのです。冷静に考えれば、馬鹿馬鹿しいと思うのですが、『学び合い』を実現したクラスの様々な分析結果は上記を支持しています。もちろん、『学び合い』のクラスにおいても悩みはあり、ルールからの逸脱もあるでしょう。しかし、それらをクラスがみんなで解決できるので、現在より遙かに効率が良いし、安定しています。『学び合い』が成立した社会も同様です。もちろん、『学び合い』の社会においても悩みはあり、犯罪もあるでしょう。しかし、それらを社会がみんなで解決できるので、現在より遙かに効率が良いし、安定するはずです。決して、みんな、みんなが仲良しというわけではありません。腹の中では嫌いだと思う人がいても良いんです。でも、その人を含めて、より多くの人と折り合いをつけた方が有利だし、安易に人を切り捨てると自分にそんであることを体で知っている大人が社会を動かします。

 多くの同志は、どれほどのクラスを実現できているでしょうか?不完全であったとしても、以前のクラスに勝る集団が形成されている、形成されつつあると実感しているからこそ同志なのだと思います。それが社会となった姿を想像して下さい。この理想社会が「たった20万人の教師」で実現できるのです。SFで求めるような未来の技術は不要です。

 全国の子ども、保護者、教師の同志に願います。このことをリアルに想像して下さい。我々の存命中に、我々の子や孫に理想社会を提供することは出来るはずです。高い志を持ちつつ、現実に柔軟に対応しましょう!