■ [大事なこと]役立つ
本年度のノーベル賞受賞者の大隅さんは以下のように述べているそうです。
『私は「役に立つ」という言葉がとっても社会をだめにしていると思っています。数年後に事業化できることと同義語になっていることに問題がある。本当に役に立つことは10年後、あるいは100年後かもしれない。社会が将来を見据えて、科学を一つの文化として認めてくれるような社会にならないかなあと強く願っています。』
この言葉から「だから基礎研究に予算をつけるべきだ」という議論は短略に過ぎます。
だれも役立つとは思わないようなものに有限な資源を投下するほど豊かな国はありません。世の中には飢えで苦しんでいる人もいるし、病で死につつあります。有限な資源をあるものに使えば、別なものに使える資源は減少します。当然のことです。
世の中には一般人には何の役に立つのかちんぷんかんぷんなものに、莫大な予算が費やされています。しかし、それは役立つと思う人がいるから予算が付くのです。そして、その役立つと思う人は、役立つことをしている(非常に単純化しています)
数学研究は何に役に立つのかわかりにくい。大学の人事で業績審査を私もしますが、数学だけは本当に分かりません。しかし、その発展が必要だと思っている理論物理学者がいます。この理論物理学者のやっていることは、数学に比べてわかりやすい。「もの」がありますから。でも、それが役に立つのかどうかは一般人は分かりません。しかし、その研究が自分にとって役に立つことを分かる実験物理学者がいます。実験物理学のやっていることは・・・・が自分にとって役立つことが分かる一般人がいます。
予算は政治が決めます。政治は、日本人全体の利害の交換所なのです。
大隅さんは自分の研究が役立たないかもしれないと思ったのかもしれません、でも、役立つと思うから研究が出来た。そして、本当は役立つことを知っていた。だって、それを分かって文章を書けなければ予算は獲得できず、研究は出来ないのですから。
非常にきついことを言います。
国立大学の予算は厳しく、各大学の教員の研究費は笑い話のように削減されています。が、ちゃんと自身の研究の意味を語れる人は予算を得ています。予算が無いという人は、自身の研究の意味を他分野の研究者や一般人に語る言葉を持たず、事実、役に立たないことをやっているのだと思います。世の中には、予算を獲得している人がいるのですから。減らされているのは黙っていてももらえる予算で、競争的な予算は相対的に増えています。
しかし、予算を獲得できない人を非難するつもりはありません。世の中のルールが急激に変わりすぎているのです。だから、ついて行けない人が生まれるのが当たりまえです。我々の世代、そして、その前の世代がするべきことを怠ったのかもしれません。