■ [大事なこと]ツボ
「この世界の片隅に」を観ました。ボディブローをかまされているようで、辛い映画です。大部分のシーンは、どうでもないシーンです。でも、観ている方に「補完」させるような作りです。そして補完してしまうと、辛すぎる。
この前の横浜での講演では語っているうちに嗚咽しながら語ってしまいました。特別支援関係の話だったので、「泣かないぞ」と決意したのにです。その部分は以下のようなことを話した時です。
ある中学校に定期的に授業参観しました。
クラスの『学び合い』が成り立ち、特別支援学級の子どもも受け入れられるようになりました。その子どもは知的な障害です。教科の内容をやるには難しい。その子は絵が好きです。だから、クラスの子どもは英語の受験勉強をしている中で、その子は絵を描いています。
最初いったとき、その子は仮面を持っていました。オペラ座の怪人のマスクみたいなものです。その子は自分の描いた絵を周りの子に見せて意見をもらっていました。しばらくすると、そのマスクはしていません。首から提げています。でも、時々、そのマスクをするようにしていました。しばらくすると、マスクはクビの後ろに下げています。そして一度もマスクをしませんでした。ある日、参観に行くと、マスクはありませんでした。と、いうことを語るときに耐えられずに嗚咽になってしまいました。
上記の内容にどんなドラマがあるでしょうか?少なくとも五十代後半のオッサンが嗚咽するレベルのことはない。実際の授業場面では、もっと目立たない状態です。でも、私は一つ一つの変化のたびに、教室の外に出て泣いてしまうのです。そして、マスクを持ってこなかったことを知ったとたんに、5分以上も泣き続けてしまいました。彼の抱えていた業の深さを考えてしまったのです。
『学び合い』の実践者から色々な連絡(正確には自慢)を受けます。「成績が上がった」、「人間関係が向上した」というものです。でも、それらは私にとっては織り込み済みのことです。だから、それを喜んでいる実践者の姿を見て、喜べます。しかし、希に、耐えられなくなり泣くようなことがあります。ツボなのです。
これは本には書けません。だって、そのツボがツボであることを説明するには、ものすごく長い状況説明が必要なのです。それでは興ざめです。だから、それをツボだと分かるような体験をした人でないと分からない。
「この世界の片隅に」には、そんなツボがいくつかありました。いい映画です。