■ [大事なこと]まし

ネットサーフィンをしていたら『私たちのやり方で何でも効果があります。どんな課題でも解決できます。といった類の言説に、真に優れたものはない。こうした場面や課題には絶大な効果を発揮しますが、この場面には適していません、と言われるほうがよほど信用できる。』とありました。全く同感です。
いくつかの書籍に書いてあることを再度書きます。
多くの人から、『学び合い』のデメリットは何ですか?と聞かれます。困ったことに、それが無いのです。もちろん、『学び合い』はパーフェクトではありません。しかし、相対的には現状よりはあらゆる面で「まし」です。
理由は簡単です。現状の教師が社会から期待されていることを実現するには一人では不可能です。だから、一人で背負うのではなく、クラスのみんなで背負おうという『学び合い』の方が「まし」なのです。『学び合い』で問題が生じるように見えるよう場合があります。しかし、冷静に考えてください。おそらく、成績が前より悪くなると言うことはないと思います。人間関係が悪くなったように見えたとしても、それはクラスの現状が見えやすくなっただけのことです。悪くはなりません。まがい物ではなく、本当に『学び合い』をやれば、少なくとも「まし」になることは自信を持って断言します。
しかし、何かを売り込むとき、全てに優れていると言うよりも「ここは駄目ですが、ここは優れています」とセールする方がやりやすいのは明白です。ですので、十年弱、一生懸命に考えました。おそらく三つあります。
第1 なんとなく出来ない
第一は、「なんとなく」授業が出来なくなる点です。例えば国語の先生に、「今日の授業の目的は何ですか?」と聞くと、「深い読み」とおっしゃる方がいます。そこで、「深い読みが出来るようになったのか、否かを何で判断されるのですか?」と聞くと、言葉に詰まります。そして、それを評価するのは難しいと言われます。
授業には目標があり、その目標を達成するために評価があります。つまり、「目標=授業=評価」なのです。従って、評価が難しい・出来ないということは、目標が曖昧であるか、目標がないということです。ということは授業ではないということなのです。
そんな状態でも、なんとなく授業らしき事は出来ます。例えば、国語の授業の場合、「丸読み(もしくはパラグラフ読み」、「新出漢字の確認」、「段落分け」、「段落の要約」・・・という一定の作業をやらせれば、何を目的にしているかを考えずに授業らしき者が出来ます。しかし、『学び合い』ではそれは出来ません。
『学び合い』では、授業の最初に子どもたちに目標を言葉で言わなければなりません。それも子どもたちが何をすべきかハッキリ分かるようにです。
●第二 闇を見る
第二は、クラスの闇を見なければならない点です。従来の授業では、子どもは静かにイスに座っています。その状態では自分のクラスには問題がないように見えます。ところが、『学び合い』では子どもが自由に動き、話すのです。その結果、自分のクラスにイジメがあったり、寂しい子どもがいたりする場合、それがハッキリ見えてしまうのです。これを一校時じっと見続けるのは教師にとって相当辛い。それが毎時間続くのです。
しかし、その闇は『学び合い』によって生じたのではありません。もともとあった闇が見えやすくなっただけのことです。その子は『学び合い』を始める前も、始めた後も苦しんでいます。仮に『学び合い』をやめても苦しみが続きます。『学び合い』をやめて楽になるのは子どもではなく、教師なのです。
●第3 説明責任
第三に、自分のやっていることを説明しなくてはならない点です。授業スタイルがガラッと変わります。保護者に対しては今までの説明は効きません。保護者が納得する説明は「結果」なのです。
例えば、横並びのことをそこそこすれば、ある子どもが不登校になっても「その子が悪い」、「保護者が悪い」と言い抜けられます。しかし、横並びでないならば、起こったことに対してちゃんと説明をしなければならなくなります。
●本来の教師の職能
以上が『学び合い』のデメリットです。しかし、三つとも、本来、教師がやるべきことではないでしょうか?
教師であれば、今の授業は何を達成すべきであることを理解すべきです。また、クラスの闇が見えるからこそ、次の一手が見えるのです。教師が見つけなければ、その闇の中で苦しみ続ける子どもがいます。そして、自ら何を求め、何をしているかを人に説明する覚悟を持つべきだと思います。
しかし、現状ではそれをしなくても生きていけるならば、それを避けたい気持ちは当然です。そして、それを乗り越える覚悟は大変だと思います。『学び合い』を実践するのに一番難しい(いや、唯一難しい)のは、一歩前に足を踏み出すことです。
しかし、その一歩を踏み出すことが、いま、これからの教師にとってもっとも必要な職能になるでしょう。これからの教師の職能は、ここで挙げた3つのポイントを押さえた上での、『学び合い』授業ができるようになるということになっていくでしょう。