■ [大事なこと]中黒
私の大学院の指導教官は70年代のカリキュラム改革を担当した文部省の教科調査官の小林先生でした。小林先生から色々なことを教えてもらいましたが、その中に「中黒」の意味です。
70年代のカリキュラム改革では理科では「基礎的・基本的概念の獲得」でした。その決まり方の過程が面白いし、馬鹿馬鹿しいのです。アメリカのカリキュラム改革の影響を受けているので「概念の獲得」は決まっていました。ところが「基礎的概念の獲得」を主張する方と、「基本的概念の獲得」を主張する人がいました。それぞれが「基礎」と「基本」の意味を論じます。訓詁学のようです。しょうがないので妥協案として両論併記で「基礎的、基本的概念の獲得」を提案したのですが、「、」には順序性があり、先の基礎的が重視されていると主張する方がいたのです。そこで順序性のない「・」で決着したということです。
多種多様な委員で構成された会でまとめられた文章とは、そんなものなのです。
お役所の文章で「・」は順序性を消し、同等であることを意味します。
従って、「主体的・対話的な深い学び」と「対話的・主体的な深い学び」は全く同じです。その順序性を論じるのは、そもそも誤りです。
基本的にお役所の文章は「非難されない」ことを第一優先にしています。だからぼやかしている部分が大部分です。ぼやかせない部分があります。それは予算と人事に関わることです。例えば、現学習指導要領には「教科では、基礎的・基本的な知識・技能を習得しつつ、観察・実験をし、その結果をもとにレポートを作成する」という文章があります。これが代表例です。この一文は「観察・実験をし」と言い切っています。言い切るためには、文部科学省は学習指導要領に書かれた観察・実験を出来るだけの器具が学校現場にそろっているかを確認し、その補充の予算獲得を財務省に内諾をもらわなければなりません。
次に、比較です。キーワードとなる言葉が文章ごとにどのように変わっているかを見ます。例えば、アクティブ・ラーニングもカリキュラム・マネジメント、学力の三要素も過去の文章と比べると面白いことが分かります。
ただ、その変化の意図を理解するには、背景を調べなければなりません。当然、審議の議事録を調べます。さらに、文部科学省以外の役所や業界団体の文章を読まなければなりません。そうすると大きな図が見えてきます。
私が書いた3番目の学術論文は上記のことを小林先生から教えてもらったから書けたものです。「西川純、小林学(1985.10):戦後の経済・産業界の教育に関する要望・意見の変遷、科学教育研究、9、日本科学教育学会、100-106」
手前味噌ですが、私の書いた「2020年激変する大学受験!」、「学歴の経済学」、「アクティブ・ラーニング入門」、「サバイバル・アクティブ・ラーニング入門」、「特別支援学級の子どものためのキャリア教育入門・基礎基本編」、「特別支援学級の子どものためのキャリア教育入門・実践編」が他の類書と決定的に違うのは、類書は教育村の中で理解しようとしますが、私はその外から理解しようとするからです。さらに言えば、1985年の論文を書くために、経団連や東京商工会議所に実際に出向き資料を探しましたが、今はインターネットで集められます。そして、私に教育村の外のことを教えてくれる仲間がいます。おかげで、どこがツボどころかを知ることが出来るのです。
私は「良い授業」を目指しているのではありません、私は幸せな社会・教育を目指しています。だから、教育村以外の人と繋がれます。それが特徴であり、武器です。