■ [大事なこと]心

ゼミ生には『学び合い』は「心」だ、と言います。わけ分からないですよね。でも、私が本に書いてある全てのテクニックを全く使いません。でも、それで動いています。
『学び合い』のセオリーがあります。それを生み出した愛と願いがあります。それさえあればいい。そうすれば2割の子どもは分かります。その子が動きます。そうすれば合計8割の子どもが動きます。
2割の子どもは正確に心を読みます。それは安心であり、恐ろしいことです。心があれば、巧まなくても言動は一つの法則に支配されます。
■ [大事なこと]面接

「2020年激変する大学受験!(学陽書房)」(https://amzn.to/2w0SECw)に以下のような架空の会話を書きました。
就職出来ない学生の面接
人事:大学では何を専門とされたのですか?
学生:源氏物語の研究をしました。
人事:そうですか(ため息)。で、実務経験は?
学生:実務経験といいますと?
人事:実際に働いた経験です。
学生:居酒屋でアルバイトを3年しました。
人事:弊社の業務とは関係ないですね。
学生:学生時代はラグビー部に所属し、チームプレーを学びました。インカレでは7位になりました。
人事:弊社の業務とは関係ないですね。で、何か資格をお持ちですか?
学生:国語の高校の教員免許状を持っています。
人事:あははははは。そうですか。ご苦労様でした。結構です。
学生:え? 面接はこれで終わりですか?
人事:はい、終わりです。
就職出来る学生の面接
人事:大学では何を専門とされたのですか?
学生:画像解析です。
人事:弊社のビジネスと関連して具体的に説明して下さい。
学生:複数の衛星画像を用いて、今後10年間の小麦の生産量を予想するシステムの構築です。御社は現在・・・(業務との関連を説明する)。
人事:で、実務経験はありますか?
学生:私の所属する研究室は御社の総合研究所と共同で画像解析システムの構築をしております。私もフーリエ変換によるノイズ除去の部分に携わらせていただいております。そこにお座りの研究所の吉村さんには大変お世話になっております。
人事:え? あ、山際研究室の方なのですね。いつもお世話になっております。
吉村:では技術的なことを質問させていただきます。現在はフーリエ変換によるノイズ除去システムの開発をされていますが、今後の展望はお持ちですか?
学生:私自身は植物生理学を専攻しております。現在は光合成に関する研究を発展させるために物理学で確立された手法を使っています。今後さらに発展させるためには、生物学での知見を生かすべきと思います。具体的には(以下、技術的な説明が続く)
人事:ところで資格は何かお持ちですか?
学生:はい。一応、TOEFLで80点を取っています。しかし吉村さんから中国語も話せるように勧められていますので、現在、中国語も習っています。
さて、架空の話しですが、架空の話しではありません。後半の「就職出来る学生の面接」は三十六年前に私が経験したことを基にしています。私の研究室は生物物理学研究室でした。生物学の研究室には珍しく、数学や物理を駆使し、コンピュータも利用する研究室です。私の研究室と繋がっている外資系企業が、衛星画像からコンピュータ処理によって穀物の生産量を予測するプロジェクトを立ち上げ、それに必要な人材を求めていたのです。
即戦力を求める外資は昔から以上の様な面接をします。
追伸 当時、初任給が15万円だった当時に60万円出すという破格の条件でした。しかし、石坂先生からは終身雇用じゃないからね、と言われて断りました。ということで、今の私がいます。でも、これからの子ども達は終身雇用という選択肢を得られない。
追伸2 エリート用の面接もその本に書きましたが、異次元の面接なのです。
■ [大事なこと]まし

この前のフォーラムで『西川先生は『学び合い』はパーフェクトではありません。でも、今の教育より「まし」です、とおっしゃいます。何故、パーフェクトではなく「まし」という言葉を使うのですか?』という質問を受けました。
私は「ここだけの話、本当はパーフェクトと思っているの」と言って、会場を笑わせた後にちゃんとした説明をしました。それは『学び合い』は常に脱皮しつつけているからです。
私が研究の軸足を『学び合い』に移してから二十年間たっています。それから目から鱗が落ちるような発見を連続してしました。おそらく、研究者百人分の発見を経験させてもらったと思います。その結果、『学び合い』の方法論は大きく変化しました。
私の本の大部分は初心者用の本です。その本には十年以上前に確立したテクニックを書いています。しかし、今ではその全てのテクニックは不要で「心」さえあればいい。大事なのはヴィジョンという訳の分からないことを言っています。
そういえば、私がSNSで発進していること自体、訳の分からないことを書いています。私の発信している情報、私の本を読んで、私の専門は何ですか?と聞かれて応えられる人は殆どいないと思います。
そのように脱皮し続けているのですから、今後も脱皮しつづけています。だから、今の『学び合い』の先に、より普遍的で完成度の高い『学び合い』が延々とあるのです。だから、「まし」とう表現を使います。
私の好きな言葉に「自らの製品、サービス、プロセスを自ら陳腐化させることが、誰かに陳腐化させられることを防ぐ唯一の方法である。(ドラッカー)」という言葉があります。『学び合い』にどこに限界があり、具体的にはどのように現れるかを一番知っているのは私だと自負しています。だから、西川研究室の数十人が膨大なデータ収集に基づき分析し、それを日本中に広がる私の人的ネットワークで拡散し、評価し、改良し、それを集約し続けます。研究者は最先端を走っていてなんぼのものです。58歳ですが、まだまだ走り続けるつもりです。
さて、次の一手はどうしようかな、と思いながら、思いつくまま発進しています。
最近の一連のバカげたメモは、最終的には毎日の授業に結びつけなければならないのです。それを考えています。
■ [大事なこと]文部科学省

私の一連のメモを読んでいる人の中に、私が文部科学省に批判的であると思われるかもしれませんが、違います。
私は文部科学省が「好き」なのです。
私は大学院の指導教官だった小林学先生が好きですし、尊敬もしています。その小林先生は文部科学省の教科調査官となった高校の先生でした。その好きで尊敬している小林先生から文部科学省の人が何を考え、どのように行動しているかを教えてもらったのです。
まあ、家庭で特定の野球チームのファンである場合、子どもが自然とそのチームのファンになるようなものです。これこれだからファンというものではなく、理屈なくファンなのです。
自分のひいきのチームが連敗すると、いっぱしの野球解説者のように敗因を分析するオッチャンっていますよね。私もそれに近いものがあります。あははははは
■ [大事なこと]巨大組織

私の知る限り、外圧を受けた巨大組織の中で、自律的な改革をし続けることによって長く生き残った組織はローマ帝国です。
ローマの場合は、原理原則にこだわらず、実利的な方法を取るということに徹した点が特異的です。当たり前のようですが、これを堅持することは大変です。実利的な方法を取るという場合、その場、その時の状況を分析し、ちゃんと考えることが必要となります。ところが、多くの場合、これが面倒なので、「先例にしたがって」とか原理原則によって判断しがちです。
例えば、「公正に個別最適化された学びの実現」を自分たち主導で出来るのか?という問を文部科学省が組織として発せられるか?おそらく、個人としては分かっている人はかなりいると思いますが。
■ [大事なこと]大学

私の講演を聴いた方だったら聞いたことがある流れです。
少子高齢化→国内市場の縮小→長期の不景気→終身雇用制度の崩壊→企業内教育の崩壊→メンバーシップ型からジョブ型→即戦力を求める企業
こうなったときの就職活動はどうなるかを知りたければアメリカでの就職活動を知ればいいです。
アメリカでの就職活動での特徴は、第一に、学歴重視・成績重視であることです。
出身大学が一流であること、修士以上の学位を持つこと、GAPの高い成績がもとめられるのです。即戦力を求めるのに学歴・成績を求めるのは大学がジョブ型に対応しているからです。大学の授業が徹底的に即戦力に関わる講義・演習です。特に修士以上になると、ケーススタディで徹底的に鍛えられます。成績が厳密で、どんどん落とされます。
ということをしているから学歴重視・成績重視なのです。もし、上記を満たさないと企業から思われたら卒業生が就職出来なくなります。だから、します。
第二に、インターンシップが盛んで、それが就職活動に直結しています。
さて、上記に関して今の大学が対応しているでしょうか?残念ながら否です。今の大学は研究者養成のジョブ型教育を、研究者養成でない大学もしています。
では、企業はどうやって即戦力の学生を求めるでしょうか?
私は「研究室」だと思います。これは、理系ではずっと前からそうでした。私の所属した研究室も特定の企業との繋がりがあり、指導教官の推薦があれば確実にそこに就職できました。
膨大な応募者の中でフィルターをかけるとしたならば「研究室」がもっとも安全です。
そのような研究室を主催する大学教員はどんな人でしょうか?企業との繋がりを持っている人です。企業の講演会に呼ばれる人です。そのためには情報発信を積極的にやらねばなりません。今までは研究者に読まれる論文を書けば良かったのですが、その内容を実務に繋げた本を書き、講演を出来る人です。
さて、このような人はどれだけいるでしょうか?みなさんの出身大学を思い浮かべて下さい。おそらく、1割もいないと思います。仕方がありません。大学研究者の評価システムは学会での業績「のみ」で評価されていますから。そうやって育てられているのです。
大学受験の産業がその流れを知るのはタイムラグが生じます。
そうなると、名門の○○大学に入学したから安心だと思って入学した学生が、入学してしばらくすると気づきます。○○研究室か○○研究室に所属しなければ一流企業に就職出来ない。その研究室に所属するためにはGAPは何点以上で、○○、○○という講義の成績がSであることが最低条件。また、研究室で求めるパフォーマンスを上げない場合は卒業単位が得られず、退学か他研究室に異動を余儀なくされるのです。つまり、大学が研究室という小大学の集合体になるのです。
ただ、このような変化に関して、一点障害があります。
それは文部科学省が入学定員に関して厳密だからです。入学した学生のほぼ全てが卒業するというモデルのもとに構築されているからです。
さて、実はもう一つのシナリオがあります。
それは企業・生徒が大学を見捨てるというものです。
ジョブ型に対応している大学教員は、自分の大学の学生でない人を研究室に所属させます。その人が所属することによって自身の研究室の業績を上げられるような人です。そこでの成果をもとにその人の推薦状を与えるのです。それが学歴になるのです。さらに資格を取ったり、実務経験を積んだりするのです。この方が脱工業化社会に対応した就職活動ですね。
追伸 昔から一流の人の名刺を100枚集められれば就職出来ると言われます。そのようなものです。
■ [大事なこと]ソフトランディング

今日の朝、以下のメールが来ました。
「西川先生
おはようございます。
「安倍首相が文部科学省を潰すという話しを色々なチャンネルで聞きます。最初聞いたときはショックで呆然としました。(最近は抵抗感がつきましたが)でも、立法が見送られたフリースクールを義務教育にするという、教育機会確保法の拡充版が通ればそうなるな、と思います。もちろん、そうならないことを願っています 」
の投稿ですが、文科省が潰れたほうが『学び合い』はしやすいのかなと感じたのですが、そんなこともないですか?
先生方の意識が変わらないから意味が無いですかね?
文科省が潰れることのデメリットを教えてください。この投稿の意味をもう少し詳しく教えてほしいです。忙しいのに申し訳ありません。ちょっと脳みそがついていきませんでした。」
あのメモはおそらく読み流されることを想定していましたが、食らいつく人がいるのですね。補足します。
最大のメリットは移行期間に潰れる人を最小限にすることができるからです。
ロジャーズとムーアの理論はほぼ重なります。購買者をイノベーター、アーリーアダプター、アーリーマジョリティ、レイトマジョリティ、ラガートに分けて考えます。一点違うのは、ロジャーズはその製品を使いこなすに努力が不要な製品を対象として、ムーアは努力が必要な製品を対象としています。後者の場合はアーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に「キャズム(深いミゾ)」があると考えています。アーリーマジョリティに広げるためにはホールプロダクトが必要なのです。
子どもと保護者には『学び合い』を利用するには努力は不要です。『学び合い』を数年実践している人だったら自明ですよね。だって、経験のない西川ゼミのゼミ生だったら、どんなあれたクラスであっても2時間で変えられますから(お申しいただければ派遣します。旅費は求めます。)。ところが教師が変わるのには努力が必要です。『学び合い』は技術的には非常に簡単なのですが、意識改革が難しい。バンジージャンプと同じです。やるべきことは一歩踏み出すだけなのですが、踏み出せない。
さて、今の行政機構の外で市場論理で広がったならば、おそらくイノベーター、アーリーアダプター以外の84%の教師がついていけずに潰れてしまいます。イノベーター、アーリーアダプターの教師もその他の教師を見捨ててしまえば腐ります。
だから、文部科学省が斬新的な改革、ただし、保守的な人からは革命的と思える速度で改革ができれば、ソフトランディングできます。ようは現行制度で何ら問題なくできることをやりさえすればいいのですから。
でも、難しいと思っています。だから、両方のシナリオに合わせた本と講演をしています。早くわかる人、実行する人が増えればソフトランディングに近づきますから。