お問い合わせ  お問い合わせがありましたら、内容を明記し電子メールにてお問い合わせ下さい。メールアドレスは、junとiamjun.comを「@」で繋げて下さい(スパムメール対策です)。もし、送れない場合はhttp://bit.ly/sAj4IIを参照下さい。             

熱き心と冷静な頭

 『学び合い』は徹頭徹尾、学術データに基づいています。それも徹底的に個にこだわった研究です。我々はクラスの全ての子どもにICレコーダーを装着し、その言葉を記録します。教室には4台のビデオカメラを設置し、子どもの行動を記録します。それを最低で3ヶ月、長いときには数年記録します。それを分析します。

 抽出児童ではなく、何故、全員の記録をとるかと言えば、我々は本当に全員が分かるにはどうしたら良いかを求めているからです。何故、3ヶ月以上の記録をとるかと言えば、本当の変化を捉えたいからです。私自身も理科教育での教具開発をしました。良い教具によって子どもは変わります。しかし、数日で変わるものは、数日で元に戻ります。我々はそのようなものの上の次元を狙っているのです。

 しかし、この研究方法は膨大な労力を必要とします。例えば、一人の子どもの1校時の記録を「聞く」ためには1校時必要なのです。しかし、それの文字起こしをして分類するには数時間かかります。一クラス30人を分析するには、数時間の30倍かかります。つまり、1校時を分析するには百時間ぐらいかかるのです。3ヶ月以上の記録を分析するとしたら気の遠くなるような労力が必要です。それをやっているのです。それによって得られるデータは、教師経験を数十年かけても得られないものです。

 もし、それに興味があれば、スタートブック以前に出した、東洋館出版社の本をお読みください。もしくは学術論文をお読みください(http://bit.do/fyZ5m)。最近の本には、学術データは書いていません。テレビを見ている人の多くは電子工学には興味が無いからです。

 多くの教師は子どもの親兄弟になろうとしてもがいています。私もそうでした。青春ドラマの教師を自分に投影し、必死になっていました。しかし、どんどん奈落に子どもが落ちていく。私は自己憐憫で酒を飲むしかありませんでした。しかし、今は分かります。それは無理なのです。ホモサピエンスは30人の子どもを育てる生物ではありません。絶対に、30人の親兄弟にはなれません。だから、一人も見捨てない思いを共有する子ども集団を育てるしかないのです。

 目に入ってくる個を気にかける心を失ってはいけません。しかし、その心に負けて個に囚われては駄目なのです。個ではなく、集団に目を向けなければならないと自らを強いなければならないのです。熱き心と、冷静な頭。なかなか辛いものです。