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学術と実践の溝

 不遜な物言いかもしれません。でも、最後まで読んでくださいね。

 教育学研究は我が国において150年以上の歴史があります。しかし、その中で大学研究者の実証的研究が全国の学校現場に影響を与えた例がどれだけあるでしょうか?

 私の知る限り、早稲田大学の河村茂雄先生と私以外に知りません。現場に影響力のある大学教師は少なくないですが、その圧倒的大多数は現場教師経験者です。その実践は、自らの実践知をもとにしています。斎藤喜博先生はその代表格でしょう。佐藤学先生は教育学会の会長をされたバリバリの研究者ですが、学びの共同体自体は実証的研究に裏打ちされているものではなく、佐藤先生の天才的な感性によって生み出されたものです。それが証拠に実証的学術データを引用することは無いですね。理論書と言うべき本もありません。

 では、今の研究者は駄目なのか?

 いいえ違います。

 全国各地には、その地方の教育改善に大きな足跡を残した大学教師は数多くいます。また、教育改善に繋がる基礎的研究を積み上げた大学教師は数多くいます。しかし、それらが現場に行かされることは殆ど無いのです。

 文部科学省の会議では、教員養成系大学・学部の教科専門をやり玉に挙げられることは多いです。そして、それは実際に施策に反映されています。残念です。

 私が理科コースに在籍しているとき、朝は教科専門の先生方とお茶を飲みながら雑談をしました。聞いていると、授業の種になることが後から、後から生まれるのです。事実、教科専門の先生のゼミを希望する学生は多いです。しかし、その先生方の叡智は、ゼミ生として薫陶を受けた人の範囲を超えません。

 何でこんなことが起こるのか?

 それは大学教師の評価システムに問題があるのです。

 大学教師の知恵は学術論文に結実します。しかし、それを読む現場教師はいません。だからその知恵が現場教師に伝わらないのです。せいぜい、地元教師の研修会で伝わる程度です。

 どうしたらいいか?

 それは出版を通してより広い範囲の教師に伝わるようにしなければならない。

 しかし、大学においてそれは「全く」評価の対象になりません。私が助教授、教授に昇任した際、評価対象は学術論文と学会賞であり、教師用図書は参考資料程度の意味しかありません。それが残念です。私に色々なことを教えてくれた教科専門の先生方の語り口は素敵で、それを文字にすれば素晴らしい本になります。

 文部科学省は実践に直接繋がらない大学教師を締め上げています。でもね、それは設置審査、課程審査の方法を変えなければ本質的には変わらないのです。

 あと、20年もたてば、教員養成に関わる教員集団が絶滅する危険性があります。私はよき時代を過ごすことが出来ました。しかし、今後はどうなるか、と思います。