今から37年前に教育研究の世界に足を踏み込みました。その前半は基本的には学術の世界で生きており、現場との関わりは殆どありませんでした。2000年頃から現場に対する発信をし始め、次第に関わりが深くなりました。その中で批判の作法が学術と実践の世界で違うことに最初は驚きました。
第一に、エビデンスの有無です。
学術の世界で批判をする場合は、批判する対象の一次情報(学術論文、学術書籍)を熟読します。そして、そこにある文書やデータを引用し、それを基に論を立てます。一方、実践の世界での批判では、一次情報を読んでそれをもとに批判する事例は1%もありません。良くて二次情報、多くは伝聞や自分の印象を基にします。
第二に、言葉の定義の有無です。
議論が絡み合わない場合、多くは使っている言葉の定義が違っているのです。そのため、学術の世界ではキーワードの定義を互いにします。ところが、実践の世界でそれをやろうとすると嫌がるのです。そして、論が左右に揺れてしまいます。
第三に、論と人との分離です。
人は感情の生物です。その人の論が嫌いだと、その人が嫌いになるのは致し方ないものです。しかし、学術の世界ではそれが露わになるのを恥じます。だから、心の中の刃を押さえ、感情的な言葉を使うのを控えます。ところが実践の世界では感情的な言葉が商業雑誌や教師用図書にあふれています。
20年近く実践の世界と関わっていますが、未だに馴れない。少なくとも上記に関しては学術の世界の方が居心地がいい。