お問い合わせ  お問い合わせがありましたら、内容を明記し電子メールにてお問い合わせ下さい。メールアドレスは、junとiamjun.comを「@」で繋げて下さい(スパムメール対策です)。もし、送れない場合はhttp://bit.ly/sAj4IIを参照下さい。             

最高の戦略

 『学び合い』は集団管理のゴールデンルールです。だから会社経営に即使えます。私は経営者向けの本として「その部下を指導しても無駄です」(https://amzn.to/3pomcES)を書きました。その中には「同僚とのつきあい方」という章があります。そこにアクセルロッドの研究を紹介しています。その章の触りは以下の通りです。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 ゲーム理論の中に囚人ジレンマというのがあります。

 簡単に説明します。二人の囚人がいます。二人が協力して黙秘すれば、懲役2年になります。ところが、一人が裏切って自白し、一方が自白しない場合は、自白した方が懲役1年で、自白しない方が懲役15年となります。そして、両方が自白したときは懲役10年です。このようなとき、二人の囚人は別々な部屋で検事に自白を求められます。つまり、もう一人が自白するか、しないかが分からない状態です。このとき、囚人はどういう行動をしたら有利かということを数学的に求める課題です。両者がえるものの総和が「両方が協力したとき>一方が裏切るとき>両方が裏切るとき」という大小関係が成り立っているとき「囚人ジレンマ」という課題になります。

 一回切りの場合は、「裏切る」というのが最適な行動です。ところがアクセルロッドは、この「囚人ジレンマ」を何度も行い、かつ、いつそれが終わるかメンバーに分からない状況での課題(反復囚人ジレンマ)ではどのような行動が最適であるかを調べました。その結果、数学的にも、シミュレーションにおいても、「しっぺ返し」という戦略が有効であることを明らかにしました。しっぺ返しとは非常に単純な戦略です。

 第一は「自分からは裏切らない」というもので、アクセルロッドは「上品さ」という表現を使っています。第二は、「相手が裏切れば、次回は裏切り、相手が協力したならば、次回は協力する」というもので「しっぺ返し」と言われる所以です。特に重要なのは、一度裏切られたら直ちに反撃しますが、いつまでも引きずらず、相手が協力してきたら協力します。アクセルロッドは「心の広さ」と表現しています。馬鹿馬鹿しい戦略ですが、遙かに複雑で高度な戦略(例えば人口頭脳を使った戦略)を上回る戦略であることが明らかになりました。この戦略は、非常に強力で、まったく協力関係のないギスギスした集団の中でも、少数の仲間を見いだせば、時間とともに主流になることを明らかにしています。

 ゲーム理論は非常に洗練され、多様な課題に対応していて、囚人ジレンマはゲーム理論の中でも最も単純な課題です。しかし、最も汎用性が高い課題だと思います。二人の人がいれば交渉があり、協力と裏切りがあるのは通例です。また、裏切れば最大の成果を得られますが、相手も裏切ることが出来て、その相手も裏切られれば最悪の成果しか得られないという状況も一般的です。そして、両者が協力すれば、両方ともそこそこの成果を得られるという状況も一般的です。つまり、人間社会の対人関係(特に学校や職場)の状況は囚人ジレンマとほぼ一致していると言って良いでしょう。そこでの最高の戦略が「しっぺ返し」という馬鹿馬鹿しいほど単純な戦略であるのは非常に意外だと思います。しかし、「しっぺ返し」が強力なため、メンバーは協力するという行動が主流になります。

 アクセルロッド自身は、この「しっぺ返し」が主流となり、メンバーが協力し合うために必要な諸条件を「つきあう状況を変える」、「将来の重みを増やす」、「点数表の変更」、「みんなに他人の幸せを気にかけるよう諭すこと」、「互恵主義を教える」、「相手を正確に識別すること」の6つを挙げています。しかし、私が教室での状況を考えて最も重要であり、かつ、それは職場においても重要だと思われるのは以下の三つです。

@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@@

 この他の章としては、「足の引っ張り合い」、「無能な部下」、「能力の低い部下」、「できないあいつ」、「理論と実践」、「働きやすい上司」、「コンプライアンス」、「やる気」、「全員参加」、「先輩・後輩」、「ホウレンソウ」、「つきあう価値があるか?」、「仕事の出来る人」、「文化の伝承」、「多様性」、「評価に納得できない」、「サボっている社員を、仲間が注意しない」、参画型にしたら別の人が仕切り出す」、「業績を上げる組織を創るには」、「個人指導を捨て、集団の力を利用する経営」と続きます。