古典落語に「試し酒」という演目があります。故柳家小さんが得意とした演目です。内容をもの凄く簡単に説明します。5升の酒を飲めるかどうかで賭けをすることになったのです。主人公は「一寸待ってくれ」と言って、外に行きます。しばらくしたら戻ってきました。その後、5升の酒を飲み干したのです。賭に負けた人が「5升の酒を飲み干せる秘訣を教えて欲しい。きっと、外に出かけたときに何かをしたんだろう」と聞かれたのです。賭に勝った人は「酒が好きで呑んでいるが、さすがに5升一気に飲んだことがないので、酒屋に行って5升を呑んできたんだ」というのが落ちなのです。つまり、5升どころか10升、つまり一斗の酒を飲んだのです。2Lのペットボトル5本を呑んだのです。
長い前置きですが、これって私に似ているのです。
出版社から執筆の依頼が来るとき、その諾否の返答を求められ、2、3ヶ月先の締め切りが提示されます。しかし、それを書けるか書けないかが分からないのです。そこで、とにかく書きます。1年間の雑誌連載ならば1日、本ならば3日から1週間で書き上げます。書き上げてから、依頼者に「これでいいなら、お受けします」と返信するのです。
私と仕事の付き合いのある方だったらお分かりですが、メールの返信は「即」です。しかし、この手の仕事の場合、書き終わるまで返信しません。受信したら、即「検討します」のレスをすべきなのですが、結果を出してから返答したい気持ちが強いのです。
近々、ある本の原稿を書き上げました。依頼する編集者に初稿を送りました。昨日の夜、返信がありました。概ね認めていただいたのですが、後半の30ページはバッサリ切られました。そ私としては理由が納得できるので、速やかに納得しました。編集者の意見は基本的に正しいと信じています。私が拘るのは、私がお願いした共著者の原稿をバッサリ切られたときです。それは拒否します。人の道として。でも、それ以外は基本的に素直です。私はその編集者を信じているので、素直に従います。しかし、朱筆をいただいた部分に対応するには数日必要です。
今は、何でも書けます。ようは何をどのようにかけという指示があれば。だから、編集者の指示のもとマシーンになっていました。
夕方に「先生のお気に障ることをしたのでは?」というメールが届きました。
私は「え?」と思いました。私は基本的に怒りません。それは長い付き合いの編集者も分かっているはずです。何でだろう?と思いました。分かりました。私はメールでの連絡に対して秒速で返答します。でも、そうでないと、私が怒っているのだろうと想像させるのでしょう。申し訳ないと思います。
執筆に入ると、とにかく書くことに集中するので、これは直せません。でも、こまったな。
とにもかくにも、本を書くことは楽しい。