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話術

 非常に不遜ですが、私は講義・講演が非常に上手いです。

 もともとは暴走族だらけの学校で物理の授業を成立させなければならないという状況に新採用の私がたたき込まれたことに端を発します。幸い、そこで生き残った先輩教師に可愛がられ、その方々から吸収しました。そして、半年ぐらいで授業を成立させることが出来ました。当然、深い教材理解なんて無理です。また、多くの教師用図書で書かれている網羅的な細かなテクニックなんて無理です。そんなの畳の上の水練で、実際にはそんな細かなことを意識するなんて無理です。でも、声の出し方、間の取り方、笑い方、そしてなによりも子ども集団へのおだて方、脅し方は、比較的短期間で向上できます。

 しかし、そのテクニックだけでは無理で、徹底的に話の構成を組み立てました。例えば、「ここで○○と言って笑わせる。その後、○○という反応が○○が出すだろうから、それを拾って・・・」と組み立てるのです。高校教師時代及び大学教師の前半ぐらいは、内容よりこの種のことに時間をかけました。内容は調べれば分かりますし、毎年使えます。しかし、子どもたちの反応を組み立てるのは、その集団によりますから。

 その後の私は変わりました。今では何も考えません。昨日の講演会でも何も考えていませんですし、そのそもプレゼンの用意をしていません。会場では、私が語る時間の確認と、会場の確認、そして大体何が目的の会かを確認します。それで終わりです。あとは、にこやかに挨拶をして、流れるままに語ります。

 私の生涯で最も話がうまかった教師は、高校1年に地理を学んだ先生です。その先生は教師としてのみならず、研究者として、教育行政においても一流の人でした。私は高校教師になる直前にその先生に会いました。そして、何を学ぶべきかを質問しました。毎週、国会図書館に行くような人ですから、教材研究を勧められると思いました。ところが「落語を聞きなさい」とアドバイスを受けました。その先生の新採用は上野近くで毎日、鈴本演芸場に通ったそうです。そのため、私は最初はテープ、そして音楽ファイルで落語を聞き続けていました。それも何十年も。学ぶべきは多いです。声の足し方、間の取り方を学びました。しかし、涙を流させるレベルの名人のポイントが分かりません。

 しかし、『学び合い』を深め、それを語る中で分かりました。落語の大名人は演ずるのではなく、その人になるのです。人は人の話を聞くとき、無意識に細部も聞いています。ところが演じている人の場合、細部に「ウソ」があるのです。まあ正確に言えば、本当だったら絶対に言わないことを言ってしまうのです。その瞬間に「醒める」のです。ところが名人の語りにはウソはありません。だから、話の最初から終わりまで、安心して身を任せることが出来るのです。

 だから、昨日の講演会では、高校教師に培った基礎的テクニックを駆使しました。しかし、一番大事にしたのは私自身が本当に信じていること「だけ」を語ることです。だから下手に話の組み立てをすると、それに合わせるために微調整(つまりウソ)を言ってしまいます。だから、何も考えず、ただ本気で語ります。

 これが教師40年かけて到達した話術です。