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2002-06-10

[]研究のまとめ方 10:16 研究のまとめ方 - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 研究のまとめ方 - 西川純のメモ 研究のまとめ方 - 西川純のメモ のブックマークコメント

 ジェンダー研究しているYさんが深刻な顔で相談にきました。内容は研究のまとめ方です。Yさんはジェンダー関連の多くの文献を読みました。Yさんによれば、その多く(特に社会学関係)の研究では、「男性加害者女性被害者」という図式で研究をまとめているそうです。以前の個人ゼミで、「男性加害者女性被害者という図式で見るのはやめようね」ということはYさんと私の間で合意したことです。しかし、それ以降も数多くの文献を読んだYさんは不安になり始め、相談にきました。

 それに対して、私は以下のようなことを話しました。

 「男性加害者女性被害者」という図式が正しいかもしれないけど、Yさんの目の前にいる男子一人一人、加害者というふうに思える?(Yさんは首を振る)私もそう思う。現在社会男性に有利に働いていることは理解できるけど、だからといって、その責任を個々の人に帰結しても仕様がないように思えるんだ。特に、子ども責任を負わせる気にはならないよ。さらに、だからといって男性社会というような「社会」に責任を負わせる気にはなれないな。だって、そんなことしてもクラスの中は、ちっとも良くならないもん。我々は現実クラス子どもたちを救いたいと思って研究しているんだよね。その責任を「社会」に追わせたって、我々は「社会」を直接、何とか出来そうにもないよね。でも、クラスの中で大きな権力を持っている教師の意識を変えることは、我々の努力次第では出来そうだよね。だから、教師の持つ授業観・子ども観によって、クラスの中に現れる男女の関係がどうなるかという方向でまとめることのほうが実り多いと思うよ。

 Yさんはニコニコして帰りました。1年以上話し合っていると、教育に関するもっとも基礎的な部分が似てきます。その共通部分は、指導学生指導教官という関係でできあがるのではなく、別な指導学生指導教官、さらに、指導学生対指導学生という複雑な関係の中で成立します。我々の研究室現在私を含めて14人で構成されています。したがって単純な二人の関係だけで14×13という膨大な組み合わせがあります。それらが複合的に組み合わされ、それが徐々に変化する、それが研究室の文化です。Yさんも私も、その文化の中にいます。したがって、私が長々話したことは、Yさんも百も承知、二百も合点なんです。でも、ど偉い先生の名著の中で、何度も何度も言われると、Yさんも不安になってしまいます。そうなったとき、大学先生(へぼ教官であっても)が自信を持って、「大丈夫だよ」ということは意味があることだと思います。

[]本日、朝一番の感動 10:16 本日、朝一番の感動 - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 本日、朝一番の感動 - 西川純のメモ 本日、朝一番の感動 - 西川純のメモ のブックマークコメント

 私の術中に陥ったHさんから、途中経過の報告がありました。しかし、得られた膨大な結果に圧倒され、悩んでおられました。そこで、以下の返信をちょっと前にしました。

『一読しました。

研究者の直感で、いいものだと思います。

しかし、結局、Hさんが何を言いたいのかが分かりづらいようにおもいます。

 会話のカテゴリー分けは適当か?

 人間関係と学びの関連性を,客観的に数値で表す事柄はなにがあるだろうか

との質問がありましたが、何を言いたいかによって、カテゴリ分けが妥当かどうかが決まります。

どんな人間関係とどんな学びの関連性を言いたいのかによって、どのような数値で表すか決まります。

Hさんは、実に多くの、かつ、重要なことに気づき、かつデータを持っています。

しかし、重要なのは、それらすべてを見てきたHさん自身が、

結局、何に一番感動したか、何に驚いたかです。

ゼミでもよく言ったと思いますが、それを短い言葉でポンと表現してください。

たとえば、昨年度のHさんの成果は、「教師が目標を与えるか、方法を与えるかで子どもの動きは違う」

Hさんの言葉で言えば、「短期間の目標/長期間の目標」と表現できるでしょう。

これぐらいの言葉で表現してください。

あとは、「自分は何でそう思ったのか」、「それをどう表現するか」という段階に進みます。

でも、最初は、何に感動し、何に驚いたかです。

一つとは言いませんが、2~3以内に一度まとめることをお勧めします。

これだけ、いろいろ面白い現象に気づいているのですから、捨てるに忍びないものもあると思います。

しかし、一度、えい!っと捨ててみてください。

案外、自分が感動したものを整理すると、その中に含ませることができることを気づくものですよ。』

上記のメールに対する返信が、朝一番できました。

 『メールありがとうございました.ご指摘があったとおり,どこを切り出そうということに気を取られていて,何を伝えたいのか,自分が忘れてました.

 とても,些細な事だったので「これはどうか」と思ってしまいますが,授業時間に自分のつぶやきを誰かが拾ってくれるだけで,子どもは意外と学習意欲が出てくるんだな,と感じています.対教師とか生徒間の会話とか難しく考えるより,自分の気持ちや考えをキャッチボールしやすい人がいれば,そこが子どもにとって授業や教室での居場所なんですね.人や物との対話や会話が学びなのですから,居場所があるという安心があるだけで,学び合うのは当然なのです.

 結局,教師の在り方,目標設定と提示でキャッチボールの相手を誰にするかです.

 授業に参加できない,教室に入れない3年生がいます.つきっきりであれば学習もできます.表情や呟く単語からでも何が分からないのか推測して教師は対応できます.しかし,授業中,彼らの呟きを誰が拾うのか.拾い合うのは結局同様な仲間でしかなく,教室から出て行きます.話を聞いてくれる教師には積極的な,時には挑戦的な言動をする子どもが,仲間内では弱い立場にあることは,良くご存知だと思います.理科準備室で3時間も興奮して話すADHD子どもが教室で落ち着けないのは,自分の言動に対する級友の反応が怖くて仕方がなからでした.

 授業のIRE構造の中で,発言できるのは正解が分かる子であって,正誤を恐れず自分の意見をつぶやけるようになるだけでも結構な力だと思います.つぶやけるようになるまで,もっていくのが教師の力量だと思います.中学校で学級全体から声が出る授業が普通にできれば,それはすごいことだと思います.』

 これを読んで、また、ウルウルしてしまいました。

 Hさんは、上記のことを一般論ではなく、膨大な質的データ、及び量的データで、圧倒的な説得力を持った論を展開されると思います。ワクワク!

[]民主主義 10:16 民主主義 - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 民主主義 - 西川純のメモ 民主主義 - 西川純のメモ のブックマークコメント

 金曜日の全体ゼミ感動しました。

 院生のYさんは理科授業におけるジェンダーに関する研究です。昨年のYさんの研究の中で感動したのは、第一は理科の授業においてジェンダー存在していることです。これは予想通りです。しかし、Yさんは数ヶ月にわたって教室に入って観察し続けています。そのため、生々しい場面を数多く切り出してくれました。その場面には、調査を始める前から、「あるだろうな~」と予想したものもありました。しかし、それ以上に、「え!?でも、そういえば~・・」とうなってしまう場面も数多くありました。もう一つ昨年の段階で感動したのは、ジェンダー意識は、男子以上に女子児童がもっているということです。簡単に言えば、「理科男子が得意」という意識は、男子以上に女子が持っていることが明らかになりました。

 ことしは、昨年の実態調査をふまえて、授業実践をしました。金曜日ゼミでは、その報告がありました。昨年度のYさんは、ニコニコしながら「先生、入学以来で第○○回の個人ゼミです!」と言って、週1度以上個人面談をしていました。数ヶ月にわたって現場校に戻って調査しているときも、週に1度は上越に戻り個人ゼミをしていました。ところが、今年の授業実践に入ってから個人ゼミの申し込みがありません。「どうしたのかしらん?」と、実は心密かに心配していました(読んでる?、Yさん)。したがって、昨日の全体ゼミ発表は、久しぶりの報告です。

 ゼミでの内容は、実にクリアーにまとめられていました。感動したのは二つです。第一は、細かなテクニックではなく、教師の授業観が子どもたちに伝われば、男女の関係自然と変わるということです。「テクニックではなく授業観・子ども観」は我々研究室の基本テーマですが、ジェンダーにおいても成り立ったことは、心強い結果です。でも、これに関しては、過去研究からある程度予想がつきます。感動した第二は、男子の意識です。

 Yさんの授業実践の方法は、過去の諸先輩がやったように、教師が「ああせい」、「こおせい」と詳細に指示するのではなく、子どもたちに自分たちの行動を振り返らせ判断させるという方法です。その基本にあるのは、子どもには自らをただす力があると信じる、子ども観に根ざしています。それをすると、女子の方から、「おかしい~!」、「むかつく~!」と反応が起こるそうです。そして、速やかに男子のみが活躍する理科から、男女とも活躍する理科に変化するそうです。私が感動したのは、そうなったあとの男子の意識です。

 それ以前の男子は、理科の時間は主導的に行ってきました。面白そうな理科の作業を女子から奪うような行動をしていました。しかし、Yさんの実践の後、そのようなことが出来なくなります。しかし、そうなったあとの男子は、そういう状態を肯定的にとらえていました。

 我々は日本に住んでいます。おそらく、全世界の50億人の中で、民主主義の恩沢を比較的多く受けている数少ない国民の一つだと思います。その民主主義のすばらしさを、Yさんのクラス男子の意識に見ることが出来ました。差別というのは、差別を受ける側と同様に、差別をする側の心をむしばむものだと思います。互いに最低限の敬意を持ち合う関係というのは、全ての人にとって「よい」ものだと思いました。