■ [大事なこと]理論と実践の往還
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教職大学院では「理論と実践の往還」明確に求められています。しかし、これは教職大学院ばかりではなく、教員養成系大学は全て求められていると言っても間違いないと思います。
「教職大学院におけるカリキュラムイメージについて」では、「大学は教育研究の場であり、その成果を蓄積している。他方学校教育現場は幼児・児童・生徒(以下「児童生徒等」という。)の教育をつかさどる場であり、日々の営みとしての教育が実践され、その経験が蓄積されている場である。教職大学院はこの二つの世界の架橋となり、その融合を目指すものである。教職大学院を構成する教員と学生は、この二つの世界を往還することにより、教育現場に生起する課題の理解と解決を通して、教員としての資質能力の向上を果たすとともに、学校現場の改革・改善に寄与しようとするものである。」と書かれています。
ここには往還すべきなのは、教員と学生であると明記されています。しかし、これがどれほど出来ているのか考えます。私が学術の世界の情報収集しているときに目にする人と、実践の世界の情報収集しているときに目にする人で一致する人は、拡大解釈しても百人程度です。良く目にする人のレベルになれば、十人もいるでしょうか・・・・
端的な例で言えば、「博士の学位」、「学術論文」、「学会賞」を持つ人はいます。「多くの教師が読む実践本」、「実践論文」を持つ人はいます。しかし、両方を持つ人が殆どいないのです。
しかし、それは個々人の問題ではありません。評価システムがそのようになっているからです。例えば、私は大学の研究者教員ですが、私の人生において「多くの教師が読む実践本」、「実践論文」が評価されたことはありません。私が大学や学会で評価されるのは「博士の学位」、「学術論文」、「学会賞」によってのみです。
逆に私が学校現場で評価されるのは「博士の学位」、「学術論文」、「学会賞」ではありません。「多くの教師が読む実践本」、「実践論文」だと思います。
実際にある現職院生のゼミ生から実際に聞いたことです。そのゼミ生が仲間の教員に私のことを「博士の学位」、「学術論文」、「学会賞」で説明したときは、「ふ~ん」程度でした。ところがその地域の学校研究で名の知られた学校で講演をしたと話したとたんに、目の色が変わったそうです。
これでは、一人一人がどの業界で評価を受けようかという指向性によって求める業績が別々になってしまいます。これでは教員の中で学術と実践の往還が成されていない。結果として、学生は学術の強い教員から学術を学び、実践の強い教員から実践を学ぶことになります。そして、学生に「往還せよ」と求めるのです。こりゃ無理だ。実際に教員自身が学術と実践の往還をして、それを伝えない限り、学生が往還するのは困難でしょう。
そのためには大学は「教師が読む実践本」を積極的に評価するべきだと思うのです。そうすれば素晴らしい実践本を書ける研究者教員は少なくないはずです。私の経験から言えば、正直、最初の実践本を書くときはどう書けば良いのか検討が分からなかった。しかし、書いている内に、結局、講義で語っているようなことをまとめれば良いと言うことに気づきました。学生を引きつけられる講義をしている教員養成系の教員はかなりいます。その人達が、その分野の最先端を現場の先生方に伝えられたらどれほど面白いことが起こるか分かりません。
しかし、一方、学校現場も変わらなければなりません。小学校、中学校、高等学校で言っている「研究」は失礼ながら研究ではありません。研修です。データの分析が甘いし、理論的背景も曖昧です。なによりも先行研究を調べていません。学術には数百年のノウハウが蓄積されています。それを使えば、研修が研究になります。
学術も実践も、この数十年にそれまでにない速度で進化しています。学術は関連する心理学や社会学等の影響が大きいと思います。一方、実践も本が安価になったこと、インターネット発達により、実践者同士の繋がりが密になったことが原因だと思います。しかし、それぞれが別々な方向で進化した結果、両者の溝も深まったように感じます。なんとかせねばと思うのです。