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実験本に望むもの

 本屋の「理科」の棚を見ると実験本が大流行です。ちょっと前に、実験本がベストセラーになってからは、一層加速したようです。私自身も実験教材を開発したこともありますが、基本的には教材ではなく学習者に興味を持っています。そのため、実験本をちょっと離れた立場から見ています。その立場から見ると、こうあったらいいなと感じるものがいくつかあります。実験本を書いた人、書こうかなと思っている人がいたら、頭の片隅にでもおいていただければ幸いです。

 気になるのは、「楽しい」と銘打った本が多いですが、本当に子どもは楽しいと感じているのでしょうか?確かに、「ぱっと光り」、「ぱっと消え」、「大きな音が出て」等々は大方の興味を引くであろうことは予想が付きます。しかし、その実験が時間・手間がかかる場合、子どもたちは飽きてしまうのではないでしょうか?さらに、誰しも○○フリーク、××おたくと言われる人の長話(ひどいときになるとビデオ映写)にウンザリしたことがあるのではないでしょうか?

 また、同様に本当に、子どもは分かるのでしょうか?実験するのは簡単で、おもしろい実験も、その理屈を理解することは大変の場合が多いようです。理科が得意な人(理科教師の殆ど)は、理屈を聞いて「あーなるほど」と分かるとしても、子どもには分からないものが多いように思います。私は大学で生物物理学を専攻し、都立高校の物理教師として採用されましたが、未だに円運動が関係する教材(例えばコリオリ)などは、頭が痛くなります。

 私は、実験本の全てが「楽しくなく」、「分からない」と主張しているわけではありません。おそらく、圧倒的大多数の実験は「楽しく」、「分かりやすい」ものだと信じています。ただ、「私には楽しく、分かりやすいから、当然、子どもたちにとっても楽しく、分かりやすいはずだ(もしくは、そうあらねばならない)」と考えるのではなく、「私には楽しく、分かりやすいが、子どもにとってはそうではないのではないか?」という恐れを持つべきだと感じています。私の研究室では、子どもと教師の認識の差異を研究していますが、それらの結果は「私(教師)には楽しく、分かりやすいから、当然、子どもたちのとっては楽しくなく、分かりづらい」という危険性を示しています。だから、実際にやってみて、子どもがどのように認識したかを示めしているような実験本があればなーと感じています。

追伸 仮に、「私(教師)には楽しく、分かりやすいから、当然、子どもたちのとっては楽しくなく、分かりづらい」という最悪の場合であっても、それは、それで意味ある実験本だと思います。だって、先に述べたような○○フリーク、××おたくと言われる人の長話(ひどいときになるとビデオ映写)を聞いたときでも、少なくとも「それを本当におもしろいと感じているんだナー」ということは伝わります。それを通して、理科好きになる子どもも出ることでしょう。それに、教師がつまんなそうにしていたら、子どもたちはもっとつまらなくなりますから。実験好きな教師が楽しめる実験本は大事ですね。