お問い合わせ  お問い合わせがありましたら、内容を明記し電子メールにてお問い合わせ下さい。メールアドレスは、junとiamjun.comを「@」で繋げて下さい(スパムメール対策です)。もし、送れない場合はhttp://bit.ly/sAj4IIを参照下さい。             

2001-03-18

[]担任心得(怖い話) 22:57 担任心得(怖い話) - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 担任心得(怖い話) - 西川純のメモ 担任心得(怖い話) - 西川純のメモ のブックマークコメント

 高校教師の2年目に初めて担任になりました。その際、先輩教師から担任心得をいくつか教えてもらいました。

1. 生徒の金を立て替えるな

 担任は、給食費(定時制高校には給食があります。)、修学旅行の積立金等の集金を行わなければなりません。持ってこない生徒もあり、かつ、家庭の事情を考えると強く督促できない場合があります。少額だと、立て替えてやろうという気になります。しかし、その立て替えの回数が多くなると、かなりの金額になります。先輩教師によると、立て替えたお金が返ってきたことはないとのことでした。親にも、子にも督促しても、右に左にのらりくらり。借金を踏み倒したまま、卒業式にいけしゃーしゃーと両親(晴れ着)とも出席するそうです。その先生曰く、「せめて、すみませんの一言があれば許せるが」とのことでした。

2. 子どもを助けようと思うな

 どうしようもない親はいるものです。どう考えても、その親と一緒にいることは、その子にとって不幸なことだとしか思えない場合があります。いくつか、詳しい事例を聞いたことがありますが、本当に救いがない場合があります。

 その子を救い出すためには、親から離さなければなりません。しかし、先輩教師は、それはするなと教えてくれました。何故かといえば、「親から離すと言うことは、自分自身が親代わりの責任を負う覚悟がなければならない。そのような責任を負うことは、ものすごい責任で、その影響は自分自身の家族までも巻き込むことになる。自分自身が救うべきは、まず、家族であるべきだ。」とのことでした。なるほどと思いました。つまり、テレビ番組のような教師像は絵空事であることがよく分かりました。

 教師は、生徒の全人格に関して責任を負うのではなく、自分が担当した勤務時間に責任を負うことが仕事だと教えてもらいました。(これだけでも、とてもても大変なことです!)

3. 何をいつ指導したかのメモノートに記録しろ

 どんなに教師が一生懸命やったとしても、問題が起こる可能性があります。その際、親と「言った/言わない」、「やった/やらない」ということで意見が食い違う可能性があります。そのため、先輩教師の場合は、毎日、どんなことがあり、どんな指導をしたかを丹念に記録していました。

4. 退学勧告しなければならないと予想される子供の親に、頻繁に連絡せよ

 小・中と異なり、高校には退学があります。といっても、学校側から退学を命じることは殆どなく、自主退学の形式をとる場合が多いように思います。

 担任教師の大きな仕事は、欠席・怠学の著しい生徒に対する指導があります。当然、個別指導等の様々な対応をします。しかし、どうしようもなくなった場合、親に自主退学を勧め、すんなりと手続きをとってもらうという仕事もあります。この際に、親とのトラブルが起こる原因は、親が実状を知らなかったことに由来します。「そんなことは知らなかった」、「何故、いままで連絡がなかったか」等の不満がそれです。

 そのため、どうしようもなくなりそうになりそうだという生徒の親には、毎日の放課後に、今日、何が起こって、どういう指導を行ったかを、こと細かく説明します。だいたい、30分弱は話します。自分の子どもが、どんな子であるかは、親が一番よく分かっています。そして、どうして良いのか分からないので、一番悩んでいるのも親です。しばらくたつと、たいていの場合は、「先生、今まですみませんでした、退学させてください」と親の方から退学したいと申し出ます。

 私の場合、幸い1~3のような事態にはなりませんでした。しかし、「4」は何人も経験しました。これがとても辛い。しかし、学校組織という中で、やらざるを得ない状況に追い込まれます。実際、このことを嫌がり、先延ばし、先延ばしし、その結果、多くの先生方に迷惑をかける人もいます。担任している生徒はかわいいし、また、なついてくれます。何とか救いたいと思います。しかし、放課後に親に電話をかけるときは、「結局、退学させるために俺は電話しているんだなー」と感じます。

 大学の教師になって、一番うれしいことは、この退学のための手続きをしなくても良いことです。