■ [大事なこと]バージョンアップ
私の定番の話の中で、ゼミ生にのみ語る内容というのがあります。その一つに出世があります。
私の指導教員は小林学先生です。本当に優しくて素晴らしい先生でした。東京都の高校の教師でしたが、若くして指導主事に抜擢され、そして、文部省の教科調査官になり、筑波大学の教授になられた方です。私が東京都に採用された前後だと思いますが、その小林先生にどうやったら出世できるかを聞いたことがあります。その時、小林先生が笑いながら話してくれたことです。
教員の自主的な研修団体というのはあるものです。小林先生が、その会に出席して受け付けをしたとき、何をするかと聞かれました。ま、普通は名前を書いて、会場に移動します。しかし、それでは駄目だそうです。小林先生曰く、受付の人に「何か手伝うことはないですか?」と聞くことだそうです。おそらく、最初は断られるでしょう。でも、二三度申し出ると、自分でも出来るような仕事をしていると、仕事の打ち上げの会に参加できる。そうすると、今まで出会えない人と会うことが出来る。情報が広がり、より高度な仕事が与えられる・・・・。
この話を聞いたときは、本当には理解できませんでした。しかし、それなりの立場の人と話すことが多くになると、上記は本当だと思いました。つまり、横並びではない、一歩高い立場で物事を考えられることが大事だと言うことです。
さて、何でこんな事を書きたくなったかというと、最近もやもやとしていたことのこれと結びつけるとすっきり出来たからです。
西川ゼミの学生さん(特に院生さん)の言動を見ていると、ビックリされると思います。二十代前半の学卒院生さんが、研究主任レベルのことを考えているのです。そして、現職院生さんは校長レベル、さらには市の義務教育課長レベルのことを考えているのです。ゼミ運営は完全に『学び合い』ですので、目標を与えた後はじっと見守っています。でも、ゼミの動き方は凄いものがあります。
私の悩みは、二十代前半の学生さんに、研究主任レベルのことを考えさせて良いのだろうか?と言うことです。多くの学生さんの場合は、自分の職能形成に意識が行っています。どのような声がけをしたらいいだろうか?とか、どのような教材提示が必要か?と考えている中で、先生方はどのような声がけや教材提示が必要かを考えているのです。そう考えなければならない状況に追い込んでいるのは他ならない私です。でも悩みます。
それを考えているとき、小林先生の教えを思い出しました。そして、納得しました。結局、教師の職能形成の場は、現場です。教え子という、厳しくも優しい(そして厳しい)教師のものでしか学べません。それを乗り越えるには、多くの人からの教えをもらわなければならない。問題は、どれだけ多くの、そして志の高い先輩と繋がれるかどうかです。そして、それを決定するのは己の志の高さです。もし、未熟であっても研修主任の意識で行動できる若手は、校長レベル以上の志の人と繋がれ、多くを学べると思います。
既存大学院から教職大学院に学内異動することによって、それを計画した私ですら予想し得ない変化が西川ゼミに起こりました。当初は学級支援だったのが、学校支援に変わり、今、地区支援になったのです。それにともない、学卒院生さんは研究主任レベルの課題を与えられ、現職院生さんは市の義務教育課長レベルの課題を与えられています。来年度は、学卒院生さんが市の義務教育課長レベルの課題が与えられ、現職院生さんは県の義務教育課長もしくは市の教育長レベルの課題を与えられます。その学生さんの指導教員であり続けるためには、私は県の教育長レベルの意識が求められます。考えるだけで、息が苦しくなりますが、学生さんも同様なのでしょう。
明後日、地元の先生方の前で、ゼミ生が現場学校に入った成果を発表します。私は細かいことは分かりません。でも、バージョンアップしたゼミ生の発表が楽しみであると同時に、怖く感じます。私は彼らの尻をたたくのが仕事ですが、彼らは私の尻をたたくのです。