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2006-09-03

[]やっぱりね(その2) 08:29 やっぱりね(その2) - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - やっぱりね(その2) - 西川純のメモ やっぱりね(その2) - 西川純のメモ のブックマークコメント


 「やっぱりね」で紹介した方からメールが来ました。私の返信を載せます。イタリック(斜体)が私の返信です。

 前回は○年1組の授業の報告をいたしました。今日は○年2組の報告をします。このクラスこそ、前回お話した学級です(学び合いを試みたけど失敗したと感じたクラス)。夏休みを挟んだとはいえ、やはり生徒の雰囲気は決して良い感じではありませんでした。そこで、今回は意図的に明るくふるまい、気持ちのなかで「もう一回チャレンジさせてね。」という心構えで取り組むことにしました。前回同様、「コミュニケーション能力ものづくりに必要な能力である。」と板書し、その根拠について説明しました。今回は、特に、「全員で同じ目標に向かうことの意義」「一人だけ完成しても意味がない。助け合って完成させる事の必然性」を実例を出して説明しました。いわゆる体育会の「連帯責任」とは違うということを強調したかったからです。

我々は、教材や指導法をあれこれ考えることは重要ではないと考える一方、ここでどう語るか(即ち、自分が学校教育をどのようにとらえるか)が重要だと考えています。

 さて、結論を言えば、今回も成功したと言えると思います。授業終了後にアンケートを取りました。 「あなたはどれだけ授業に集中して取り組めましたか?

 という問いで、三択させたところ

ア、100%集中してとりめた・・・24人

イ、80%集中して取り組めた・・・10人(たま脱線したが、仲間と声掛け合ってすぐに授業に集中した)

ウ、50%しか集中できなかった。・・0人

となりました。

 今日新たに発見した点を箇条書きにまとめます。

1,授業効率がとても良くなる。

 ア、半田付けで失敗した時、半田を吸い取ってやり直すための「半田吸い取り器の使い方」

 イ、完成した作品を検査するための回路計の使いかた

 ウ、樹脂製品を接合するホットボンド

 エ、可変抵抗ダイヤルを組み込むための穴の開け方。

 オ、感電防止のための樹脂板を取り付けるための仮固定のしかた。

 カ、アクリル板をヒーターで曲げる方法

 キ、木片を切断するための糸のこ盤の使い方

 これら全て、生徒に作業させながら、たった2時間で上記項目を全て学習させることができました。今までは、全て授業前に教師が一斉授業で教えていた内容です。作業させずに4時間講義をしなければならない学習内容です。具体的に何をやったかというと、ア~キの道具を用意し、それぞれヒントをだしながら生徒に使用方法を考えさせたのです。今までは「教えなければできない」という固定観念にとらわれていました。それを、「ヒントさえ出せば、子供は自力で問題解決できる」という発想に切り替えました。順番にヒントをだしながらそれぞれ代表というか最初に「教えて下さい。」と言ってきた生徒にヒントを出しながら順番に声がけしていきました。もちろん他の生徒は黙々と自分の作品製作に取りかかっています。生徒はすごいですね。ヒントだけで全て使用方法を身につけていきました。以後は簡単でした。ア~キの同じ質問が出れば、最初に課題をクリアした生徒に聞くように指示すればいいだけです。すると不思議なことに人間関係が成立してなさそうな者同士でも聞かれればきちんと教えてあげるんですね。男女の境なく、教えあっていました。

講演会学び合いでは3分の2の時間で出来る、うまくいけば半分の時間になるという、私の言ったことを実感されたでしょ!

2,生徒は自力で課題を解決する。

 上記の「イ、完成した作品を検査するための回路計の使いかた」いままできちんと教えられなくて困っていました。 検査には回路計を使います。内部に電源があって、回路に電気を流すことができるので、電圧、電流の測定の他に、

  ア、断線検査

  イ、絶縁検査

  ウ、ショート検査

  エ、導通検査

 という優れものの装置です。 ただ、優れているが故に、教えるべき事が多すぎで、一斉授業では時間がかかり過ぎてしまい、その機能全てをきちんと教えることができませんでした。 今回、すでに作品が完成した生徒が10名ほどいました。その内の4名が回路計を持っていきました。一年生の時に簡略的に教えてはいました。それは「メーターが動いたら電気が流れている。(アの項目)だけでした。今回は、ア、ウ、エ、の3つの検査をやらなければなりません。「メーターが動いたら」だけでは説明できないレベルです。2人の生徒がチャレンジしました。過去の評価で言えば、5段階の2~3の能力の生徒です。最初は無理かなと思いました。しかし、彼らは教科書を読み(過去にはそんな事しなかったぞ!)2人で相談し、3つの検査をきちんとやり遂げたのです。その時の嬉しそうな顔!本気で「おまえ達すごいぞ!」と褒めました。

 「お前達すごいぞ!」という時の気持ちは、褒めた、とは違うものだったと思います。きっと感激・感謝だったはずです。感激感謝は、子どもたちに勇気を与えてくれます。

 あとは簡単。2人の名前を板書しておくだけです。「検査の仕方が判らない。」という生徒がでたら、「この2人に聞け!」で終わりでした。この2人はとても丁寧に教えていました。

3,授業が楽しい

 とにかく心にゆとりができます。なので、教師がリラックスして授業に望めるので、あたたかく生徒に接することができるのです。 授業開始して間もない頃、ある女の子が「オ、感電防止のための樹脂板を取り付けるための仮固定のしかた。」を見つけました。正直いえば、「教えても教えなくてもいいけど、知っていた方がいい」内容でした。早速大きな声で褒めました。「すごい!!よく発見したね。」するとグループみんなが一斉に拍手をしました。このグループこそ、前回、学び合いでは真面目に出来ないと判断したグループでした。以後、このグループはずっと集中して授業に取り組んでいました。

考察

 1 この理論は教師と生徒の信頼関係を高める。

  夏休み講義(私の講演)を聴いて、ある先生が「テレビショッピングみたいだね」といいました。私も思いました。「こんな簡単に良いことばかりではないと。」この授業に取り組むに当たって大きな不安が一つありました。それは「生徒との信頼関係が無ければこの授業は成立しないのではないか?」 ということでした。でも、それは逆でした。「この授業を実践すれば、生徒との信頼関係を高めることができる。」だったのです。こんな話を聞いたことがあります。開高健氏のエッセーで、「ニューヨークストリートギャングに襲われたら、嘘でもいいから自分がどこへ行きたいのか道順を聞きなさい。」という論でした。「全ての人は、頼りにされれば悪い気持ちにはならない」ということでした。ニューヨークギャングでさえも「期待を裏切れない」ですから、ましてや日本の善良な子供達は効果抜群のはずです。これは自分に自信のない、成績の下位者こそ効果があると思います。それこそが、今の教育問題根本を解決する一つの道標となる可能性があるのではないでしょうか?

 でしょ、でしょ

 私も、講演のあとに聞かれる典型的な質問の一つに、「ひどいクラスだったら出来ないのでは?」という質問です。私は「おそらく出来るでしょう。でも、本当に出来るか、出来ないかは分かりません。でも、そのひどいクラスをどうするつもりですか?そのひどいクラスを何とかするには、学び合いしかありません」と語ります。この気持ち、今は分かるでしょ!

2,新採用やキャリアのない先生がこの授業を実践できるのか?今回うまくいった前提として、「ヒントの与え方」があったかなと思います。この、ヒントの与え方は申し訳ないけど、今まで四苦八苦してきたキャリアがあって初めて出せると思います。経験のない先生が、この授業に取り組むとどうなるのでしょうか?非常に興味深いテーマです。というのは、もし、私が数学英語など、過去に経験のない授業をやるとなったら、やはり同じように授業が成功するのかなあ?とおもったからです。

 出来ますよ。

 もう少し子どもを信じられたら、ヒントを与えずに、待ってられます。そうすれば、ヒント無しでも子どもたちが課題を解決する姿を発見するでしょう。でも、心配だったら、ヒントを書いておいて子どもたちに渡すんです。そうすれば、出来る子どもは、それを見ます。その後の行動を見るんです。そのヒントが有効だったら使います。無効だったら捨てます。

 我々は過去に、何度もそのようなことを繰り返しました。結果として、そんなヒント無しで素晴らしいことを達成する子どもたちに感激・感謝します。そして、そんな無用なヒントに拘っていた自分を笑います。これって、実に爽快ですよ!

3,作品が早く終わった生徒の問題が解決できます。

  遅い生徒よりも、実は早く終わった生徒の指導の方が大変でした。今までは、さらに応用的な課題を与えてはいたのですが、生徒の素直な心情として「早くおわったのに、何でそんな面倒なことを。がんばり損じゃないか?」といった実態がありました。でも、「互いに教え合うことが当たり前」となれば、早く完成した生徒は、「指導者となれる」優位感を持つことができます。以前も早く完成した生徒に「指導者」のバッチを渡して、教え合うような授業をしたことがあったのですが、互いに遠慮しあうことが多く、それほど効果をあげることができませんでした。今回は「教えることが当たり前」となっているので、互いに構えることなく教え合うことができると思います。

 よい方向に進んでいますね!これに関連して一つ書きます。『あとは簡単。2人の名前を板書しておくだけです。「検査の仕方が判らない。」という生徒がでたら、「この2人に聞け!」で終わりでした。この2人はとても丁寧に教えていました。』と書かれていますが、これは良いことではありません。どうすればいいか、それは「お前ら凄いな~」と大げさに褒めれば良いんです。もしくは「お前らは、俺より良い先生だ、俺は失業だよ・・・アハハハハ」とやりゃいいんです。それは心から感激・感謝すればいいんです。

 大事な考えです、よく理解してください。我々は方法を決めません。方法は当人が選択すべきだと考えます。それ故、ヒントは紙に書いて渡します。このことによって、各人は使うか使わないかを選択出来ます。同様に、だれに教えて貰うかは、当人が選択すべきだと思います。それ故、「この二人に聞け」と指定することは良いことだとは思いません。この二人は良い教え手だよ、という情報を広げることは良いことです。

 たった1時間で、こんなに感激・感謝させてくれたんですから、これからとても楽しみですよね!これからもっと感激・感謝してください。そのためには、もっと子どもを信じて、もっと子どもに高い課題を求めるんです。教師の仕事は方法を伝えることではありません。子どもレベルの高い課題を与え、それをやる気にさせ、やる気になった子どもが出来る環境を整え、そして、厳しく評価することです。もっともっと自慢話を私にメールしてくださいね。また、気になることがあったら、気軽にメールしてください。

 なお、「テレビショッピングみたいだね」と仰った先生に伝えるのは、とっても面白いですよ。だって、今、私はドキドキ・ワクワクして感激・感謝しています。子どもに感激・感謝しますが、それ以上に、学び合いの凄さを知って、さらに強力にしてくれる先生(つまり○○さん)に私は感激・感謝しています。

 すんごく期待しています!

追伸 こんなメールをいただけるから、真面目な先生からのメールは、絶対、ちゃんと返信しています。