■ [大事なこと]囚人ジレンマ
ゲーム理論の中に囚人ジレンマというのがあります。簡単に言うと、二人の人がいて、二人が協力すると二人ともそこそこ得られます。一方が協力し、他方が裏切ると、裏切った人が大勝ちします。ただし、裏切る方、裏切られた方の得るものの総和は、二人が協力する時の総和より低いものです。二人が裏切ると最悪な状態になります。このような状態の時、二人はどのように行動すべきかというかという課題です。ゲーム理論の課題の中で最も単純な事例です。
それによると、基本的には相手を信じるが、相手が裏切ったら次は自分も裏切る。しかし、相手が協力したら、自分も協力するという至極単純な戦略の時、一番、えるものが多いのです。ポイントは、相手が裏切らない限り、自分は裏切らない。裏切ったら、断固として報復する。しかし、ぐずぐずと裏切った過去を引きづらず、相手が協力したら自分も協力するのです。この戦略が、あまたの複雑な戦力よりも強力というのが面白いですね。
この囚人ジレンマはゲーム理論の中では最も単純なモデルで、実際のゲーム理論では、その他、様々な状態で展開しています。しかし、この囚人ジレンマの状態が最も汎用性が高いと感じます。学校教育、また、ビジネスも、結局、この囚人ジレンマの状態にモデル化できると思います。多少の違いがあっても、管理職は、この囚人ジレンマに収斂させることが大事だと思います。
この囚人ジレンマにおいて、上記の結果を成り立たせるポイントはいくつかありますが、私が考えるに、最も大事なポイントは二つあります。それは、関係者が自分たちが囚人ジレンマの状態にあると認知することです。もう一つは、この囚人ジレンマの状態は永続化していると認知することです。解説します。
『学び合い』では、協同することによって勉強の出来る人も、出来ない人も得ることがあると考えます。が、残念ながらそう信じられない人も多い。教師もそうです。まあ、「勉強しなさいを言わない授業」を読んで欲しいですが、実際は、『学び合い』によって得るのは双方なんです。いや、おそらく勉強の出来る人の方が多いとも言えます。だから、協同する方が、一方が裏切る状態より両者のえるものの総和は多いという囚人ジレンマの状態なんです。ところが、一方(多くの人は勉強の出来ない人)の方が一方的に『学び合い』によってえるものが多いと考えています。そう考えると囚人ジレンマの時の行動と違った行動をします。だから教師は、上記のことをちゃんと伝えなければなりません。そして、そのためには自分自身も理解しなければなりません。残念ながら、物事をゼロサム的(つまり、相手が得をすれば、自分が得をして、自分が得をすれば相手は損をする)と考える人がいます。でも、そんな状況は社会においてはほとんど無いのです。
もう一つは、永続性です。今日が最後で、あとは関係なし、となれば裏切って大もうけしようとする行動が現れます。それが明日でなくても、先が見えれば、そういう行動をします。実際、数学的にもシミュレーションでも、その戦略は有利です。そして、人はそのように行動します。だから、教師は学び合うことの意味の永続性を語らなければなりません。つまり、『学び合い』における行動はそのクラスにおける自分のポジションに影響を与え、そこでの言動を来年も再来年も、そして大人になってからもつきあうであろう人たちに伝わることを教えなければなりません。我々は、自分が担当するクラスでのことのみを語るのでは不十分で、子どもの一生のレベルで『学び合い』を語る必要があります。