■ [大事なこと]年を取ること

私は今まで一度たりとも若い頃に戻りたいとは思ったことはありません。100mを全力疾走しても辛くない、重いものを持ったとしても腰が痛くならない、目を近づければ細かい字を読める、ということが分かっても若い頃には戻りたくない。
若い頃に、何度も死にたいと思うほど暗いダークな時期が何度かありました。それをもう一度繰り返したいとは思いません。思い出せば赤面することがあります。あんな恥ずかしいこと、惨めなことをいまの自分は耐えられません。
だから、相対として、毎年、前年度よりは「まし」になっています。10年前に比べればかなりましです。でも、こういう拡大路線はいつまでも続きません。高度成長期の日本が続かなかったように。未だに高度成長期の日本を再現しようとしている人がいますが、ナンセンスだと思います。高度成長期とは違う価値観を持たなければなりません。
三十代前半までは、自分の頭で勝負する研究をしました。しかし、三十代後半からはチームでやる研究にシフトしました。では、私が六十になって、定年になった後、どのように人生をまとめるのか、最近思います。今、加速度的に面白くなっている自分だからこそ、強く思います。
その先に何があるかは分かりませんが、なんとなく想像できます。四十代中盤までは初等理科教育法という科目を担当していました。そのために、全学の学生さんの名前と顔を一致させていました。1週間の3分の1程度は、その全学必修の科目の指導のために費やしました。教師としての私としては充実していました。ところが、最終的に私はそれを教えられなくなりました。日本でも数少ない日本理科教育学会賞を受賞した私が、初等理科教育を教えてはいけないと言われたときの憤りはひとしおではありません。しかし、数年がたって冷静になれば、あの労力が膨大な仕事を別な人がやっていくれるありがたさを感じます。そして、なんであんなことやっていたんだろう、と思います。きっとあと十数年以内に、次のステージに移るのだと思います。