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チャーミング

 ゼミ生に対して、研究のための研究はするな、チャーミングな研究をしろと申します。このことを説明します。

 学術論文は審査があり、その審査を通ったものが雑誌に掲載され、研究者としての業績になります。その審査において、一番重視されるのは「傷が無い」ことなのです。傷とは論理的な飛躍や、エビデンスの不足のことです。傷が無い論文を書こうとすると、先行研究をジグソーパズルのようにぴったりとはめ込みます。また、データを増やし、統計分析をするのです。

 一方、その論文の社会的意味は相対的に重視されません。つまり、その発見の社会的意味が大きくても傷があれば掲載されません。逆に、社会的意味がそこそこであっても、傷がなければ掲載されます。

 この傷を少なくして学術雑誌に掲載されることを目指している研究を「研究のための研究」と私は読んでいます。簡単に言えば、それを学校現場の教師に説明しても、殆どの教師は興味を持たない研究です。逆にチャーミングな研究とは、少なくない教師が興味を持つような研究です(ただし、傷があるかもしれません)。

 このことは数学や自然科学の場合は、それほど重要ではありません。何故なら社会的意味がそれほど重視されませんから。ところが社会科学の場合、結果として社会に影響を与えて「なんぼ」の学問です。机上の空論は机上の空論にすぎません。だから、社会科学においては学術論文と同時に、著作も同様に評価されています。少なくとも欧米において社会科学の巨人達は名著を残し、自らの哲学と実践を世に問います。

 ところが教育学においては、それが弱い。もちろん著作を書かれる方はおられますが、教師に影響を与えるような本を書かれる方は、社会科学の他分野に比べて極めて少ない。例えば、大きな本屋に行って経営学の棚を見てください。その多くは大学研究者が書いたものです。それに対して、教師が手に取る本のある棚を見てください。9割、いや、9割5分以上が学校現場の教師もしくは、学校現場の経験が長く実務教員として採用された人の本です。研究者としての実績が長く、学校賞や学会長を経験した人の本は驚くほど少ない。

 これが非常に残念だと思っているのです。私研究の世界に足を踏み入れた40年弱の中での教育学研究の進歩は著しいのです。私の直接の専門である、認知心理学、社会的構成主義、状況論を利用した教育研究は、学校現場に本質的な影響を与えるものだと思います。そして、その専門家が日本中にいることを知っています。これは私の専門外も同じでしょう。

 しかし、日本の研究者の評価システムが、傷が無い論文を量産することに偏りすぎています。特に、若手・中堅はそのプレッシャから、学校現場への影響を意識した研究スタンスに躊躇するでしょう。

 私は研究者になりたい人に対しては、傷の少ない論文の量産の方法を伝授します。それによって多くの人に博士の学位を与えました。しかし、今、私が指導している子ども達は教師になろうとする人達です。だから、彼らが教師になったときの指針となるようなチャーミングな研究をさせてあげたいと思っています。

追伸 西川ゼミのミッションは「自分の心に響き、多くの人の心に響く教育研究を通して、自らを高め、一人も見捨てない教育・社会を実現する」です。https://qr.paps.jp/a52wC