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2001-08-23

[]学ぶ状況 15:21 学ぶ状況 - 西川純のメモ を含むブックマーク はてなブックマーク - 学ぶ状況 - 西川純のメモ 学ぶ状況 - 西川純のメモ のブックマークコメント

 最近、息子は日本語が分かるようです。ある程度、複雑な内容を話しても、それを理解しているようです。少なくとも、こちらの要求には応えてくれます。おぎゃー、と生まれて1年3ヶ月で、このレベルまで進めるなんて驚異的です。私なぞは、中学高校大学大学院、その後をかけて英語を学んでいるにもかかわらず、外人さんの話はチンプンカンプンです。なんで、こんなに進歩するのか考えてみました。「発達的な原因」と言えば、分かったような気になりますが、それだけでもないように感じます。

 記憶実験では、「再生テスト」と「再認テスト」というものがあります。前者は、覚えたものを、そのまま再生させることを求めるテストです。後者は、覚えたものに似たものを提示し、覚えたものと同じか否かを判断することを目的としたものです。成績は、後者の方が高いのが一般的です。理由は、再認テストの場合、提示するもの自体が、記憶を呼び起こす手がかりを多く含んでいるからと考えられています。例えば、長い文章を再認する場合、全ての文章を最初から覚えていなくても、一部覚えている部分がきっかけとなって残りも思い出せることが出来ます。

 私と息子との会話は、一定の時間、一定の場所で、さらに、多くの場合は同じような私の服装・表情で、同じような言葉を私が発します。例えば、朝起きて20分後ぐらいに、居間で、Tシャツ・短パン姿の私が、ニコニコしながら、「おんもいこうか?クック(靴の)持ってきて」と言います。そうすると、よちよち歩きながら、下駄箱から自分の靴を持ってきます。つまり、私が何を言っているかを理解する手がかりは実に多くあります。

 このような息子の言語理解の能力を、「そんなのは言語理解ではない」と考えることも可能です。しかし、私は、息子のような言語理解の方が自然で、意味ある能力のように思います。また、息子が学んでいる状況の方が、自然のように思います。例えば、何もない部屋で、先生が、「おんもいこうか?クック(靴の)持ってきて」と何回も、何回も言い続けたら、その言葉を理解できるとは思えません。仮に、「このような状況でも分からなければ、本当に分かったとは言えない」とか、「無駄なものを廃することによって、知識をコンパクトにする事が出来る」なんていう主張をする人がいたら、私は、「バカじゃないの」と思うでしょう。これを認めてもらうと、今度は、学校での学習が極めてバカな方法のように思えてきます。

 例えば、実験室の中で炎色反応の実験をします。しかし、実験室は非日常の空間ですし、炎色反応自体との必然的なつながりはありません。また、炎色反応がどのような意味を持っているかも子どもたちには分かりません。知識を脱文脈し、コンパクトにして学ぶ方法、なんか、バカみたいに思える今日この頃です。